全国医師ユニオン 第2期運動方針

2009年11月22日 全国医師ユニオン 第2回総会

 

1、第2期運動方針の基本的な考え方

 全国医師ユニオンは結成して6ヶ月であり、第2期も第1期運動方針を基本とするが、この間に新しい政治の動きや、ユニオンの活動によって解明された問題が でてきたため、第1期運動方針に新しい情勢やこの間のユニオンの到達点を加え、さらに発展させたものとする。従って、第1期運動方針に追加すべきものを中心に以下に述べる。

2、この間の全国医師ユニオンの活動と課題

1)組織の確立

 全国医師ユニオンは2009年5月16日に全国医師連盟の医師の診療環境改善の運動に賛同する勤務医によって、個人加盟制の医師の職能組合として設立された。そして6月7日の全国医師連盟総会時に、その存在と目指すものを広く紹介し、公に活動を開始した。

 また、東京都労働委員会に申請を行い、1ヶ月半の時間を要したが、2009年7月21日に東京都労働委員会において適合決定され、労働組合資格証明書の交付を受けることができた。さらに、これにより8月末には法人格を取得することができた。

2)具体的な活動

 6月27日には、講演会「個人加盟制ユニオンの活動と全国医師ユニオンの可能性 ―管理職はどこまでユニオンに加盟できるか―」を開催し、講師に鈴木剛氏(東京管理職ユニオン:交渉委員)を迎え、全国医師ユニオンの基礎となる学習を行った。
 9月からは、本格的な活動として、「勤務医110番 ―医師の労働相談ホットライン―」を行い、29件の相談を受け、多くのマスコミにも報道された。その後も不定期な相談に対して可能な範囲で、助言等を行っている。

 さらに、この間に3ヶ月の編集期間をかけて10月には「医師の働く権利 基礎知識」を出版することができた。この本の普及は、今後のユニオンの活動において大きな力を発揮するものと考えられる。

医療崩壊のなかで、全国医師ユニオンに求められる役割からみれば、これらの活動は初歩的な活動にすぎないが、着実に一歩を踏みだしたと言える。

3)他団体との関係の確立

 他 団体との関係において労組分野では、東京管理職ユニオンから、管理職問題や個人加盟制組合についてのアドバイスを受けており、自治労や医労連とも情報交換 やシンポジウムへの協力などを行っている。また、日乗連とは、労働問題と安全の課題や事故調査に関する問題で、総会シンポジウムへの協力を得るなど緊密な関係を築きつつある。

 医療関係団体とは、東京保険医協会との友好関係を持つことができた。今後どのような協力関係へ発展させていくのか検討を要する。

 その他、過労死弁護団の代表幹事の方に、本の監修や36協定調査結果で協力をしていただいた。

 全般的にみて、他団体との協力関係の課題は、予想以上に前進したと考えられる。

4)会員の拡大と個別の医療機関での活動

 会員拡大に関しては、最も遅れた分野となっている。原因は、リアルで活動できる医師が少ないこと、医師の組合に関して十分な理解が得られていないことが上げられる。

 一方、相談活動において、そのほとんどが匿名であることを考えると医局制度等の弊害が大きく影響していることを否定できない。さらに、ユニオンに理解を持ち ながら「自分の病院で活動を行えば、ただでさえ赤字の病院が倒産しかねない」という理由から入会をためらう医師も少なくない。このことは、今日の勤務医の 労働環境改善が個別の病院では困難で、医療制度の抜本的な改革を必要とすることを示している。

 ただし、医療機関によっては先進的な取り組みを行っているものもみられるため、全国医師ユニオン主導による個別医療機関での先進例を作り、これを発信することも必要な課題である。

3、新しい情勢

 第1期運動方針で述べられているように、今日の医師不足による医療崩壊は、これまでの政権によって政策的に作られてきたものであり、その根本には医療費亡国論に象徴されるような医療・福祉にお金をかけることは経済的なムダとの考えがあった。

 今 回の総選挙では、政権が交代し与党民主党のマニュフェストには医療・福祉を充実させることが掲げられている。そして、医療費の増額だけでなく、勤務医に労 基法を守らせることが明記されている。これは、私たち勤務医にとって歓迎すべき大きな転換であり、勤務医の労働環境改善の大きなチャンスである。しかし、 財源問題などから簡単に実現するとは考えにくいため、全国医師ユニオンとしては与党民主党にマニュフェストを守ることを求めるとともに、積極的に全ての政 党への要請や厚労省への要請行動を行っていく必要がある。

4、この間の活動で明らかになった勤務医労働の問題点

全国医師ユニオンは発足してわずか半年であるが、この間の相談活動や全医連との協力による36協定調査により、勤務医の労働条件の劣悪な現状やそのいくつかの原因を解明することができた。

 その第1は、36協定に関する全国的で大規模な労基法違反であり、第2は勤務医に対する数千億円にのぼると見られる不払い賃金の存在である。これらの不払い 賃金は主に長時間労働や深夜労働に関するものである。長時間労働や深夜労働を強いられている診療科の医師の労働環境は劣悪であり、その科の地位の低下を生 んでいる。また不払労働が横行しているために、長時間労働が安易に強制されるという悪循環を生んでいる。

 私たち全国医師ユニオンは、患者のために長時間労働や深夜労働を行うことを余儀なくされている医師を尊重し、その働きに報いるためにも正当な賃金が労基法に基づいて支払われることを強く求めるものである。

 具体的には不払い労働は、いわゆる「当直問題」と「名ばかり管理職問題」さらに「待機時間問題」で起きている。医師の当直と呼ばれるものの多くは、夜間の 診療を前提としたもので、ほとんど仕事をする必要がない宿直ではなく、時間外勤務にあたる。すでに奈良地方裁判所で示されたように、通常勤務の賃金に時間 外の割り増し賃金を加え、さらに深夜には深夜の割り増し賃金を加えた賃金が支払われるべきである。しかし、実態は多くの場合、長時間の深夜労働に全く見合わない定額の当直料や拘束時間を無視し実際に働いた時間のみの賃金しか支払われていない。

 また、名ばかり管理職に関しては、一定の管理職 手当を払うのみで、無報酬の残業を際限なく行わせることができる構造になっている。医療機関におけるほとんどの管理職は診療に関する管理を行っているだけ で、経営権や人事権をもたない名ばかり管理職である。すでに滋賀県の県立病院では病院長以外は名ばかり管理職であり、残業代を払うよう労基署からの勧告が 出ている。

 さらに、医療機関によっては、緊急の手術などに対応するために自宅待機を命じていながら、一切の手当を支払っていないものが見受けられる。これらの拘束時間に対しても適切な賃金が支払われるべきである。

 日本において医師数の抑制政策が安易に実行できたこと、また医師の2交代制が普及しなかったのも、労基法違反の低額の当直料や名ばかり管理職の不払い労働と いう違法が横行してきたことが一因と考えられる。このことは、患者の要求に対応できる医師数のバランスを壊し、絶対的医師不足を作り出した。

 私たち全国医師ユニオンは、これらの違法行為が医療崩壊の一つの原因であると考える。勤務医の労働環境改善のために早急に法令遵守を徹底する必要がある。また、常勤勤務医の地位の向上は、様々な理由で非常勤を選んだ医師の常勤勤務復帰を促す効果も期待できる。

5、財政問題と労基法遵守に関して

 私たちは労基法の遵守を求めるが、その前提として診療報酬や補助金等の適正化が必要である。多くの勤務医は当直問題や名ばかり管理職問題などに不満を持ちながらも、法令を遵守すれば病院が大きな赤字を生み倒産することを心配し、大きく声を上げることができなかった。

 しかし、現実は医師の長時間労働や時間外労働のコストを考えることのない経営的なモラルハザードが起き、勤務医を疲弊させる労働が無制限に行われる状況が作り出され、結果として勤務医が体調を崩したり、やり甲斐をなくし病院をさる事態が起きている。

 仮に、全勤務医の三分の一の医師6万人に年間300万円の不払い賃金があった場合、1800億円になる。これに、名ばかり管理職への不払い賃金や自宅待機へ の不払い賃金を含めると、2000億円を超える額となる。この額は仮定に基づいたものにすぎないが、大規模な不払いが存在することは明らかである。このこ とが全く議論されることなく医療費や医師数問題が議論されてきたことは驚くべきことである。

 また、この数字は高額に見えるが、少ない医師 数で医療を支えていることを考えれば極めて安い額であるとも言える。民主党は医療費をOECD平均にするために、GDPの0.8%医療費を増やすとしてい る。これは約4兆円の増額を意味する。また、民主党は医師数を1.5倍に増やすとしているが、その場合一人あたりの人件費を1200万円としても13万人 で1兆5千億円を超える。最低6年間医師が増えない医師不足の中で、長時間労働・深夜労働を行っている医師に不払い賃金を払うことは、財政上も決して困難 な課題とは言えない。私たちは医師の労働に見合った賃金が払えるような、実態に応じた診療報酬の改訂や補助金の実施等を早急に実行することを強く求める。

 ただし、これまでの経過を考えると、診療報酬を上げたり補助金を出すだけでは、勤務医への不払い労働は解決されない。関係省庁をはじめ労基署等による指導の 徹底は当然として、私たちは賃金の不払いをなくすことを担保するために労基法遵守を促進する労基法遵守加算などの診療報酬システム・補助金システム等を作 ることを求める。

6、ユニオンと国民との関係及び開業医との関係

 私たち、 全国医師ユニオンは医療崩壊を防ぐためには勤務医の労働環境の改善が必要条件であるとの認識に基づいて発足した。また、勤務医の労働条件を改善するには、 医療崩壊の原因や勤務医労働の現状に対する国民の理解が必要であることも明らかである。私たちは、勤務医の労働条件の改善が地域医療を守る上で不可欠であ ること、そして国民の利益になることを正しく知ってもらうための情報発信を行う必要がある。

 医師養成には長期の時間を要するために、絶対 的な医師不足は当分改善されることはない。医学の発展と高齢化の進行により、医師不足はさらに深刻になることが予想される。このような状況の中で勤務医の 権利を守る運動には、さまざまな障害が予想されるが、ねばり強く説明を行い地域住民との共同作業を行うことも重要である。

 最近、勤務医 と開業医を対立させる議論が行われているが、これは極めて有害と言わざるを得ない。絶対的な医師不足は、一般の開業医の責任ではなくこれまでの政府の医療 政策の誤りから引き起こされたものである。開業医のやる気をなくすような政策をおこなえば、結局患者は病院に押しかけることになり、勤務医の負担は更に増 え、医療崩壊に拍車をかけることになりかねない。少ない医療費少ない医師数で世界1と評される日本の医療を守るためには、勤務医にも開業医にも働くインセ ンティブを与える必要がある。勤務医と開業医の連帯は重要である。

7、私たち勤務医の要求

私たちは第1期方針では以下の3点をスローガンとして掲げた。

・過労死を引き起こす過剰勤務をなくそう!
・当直を時間外勤務と認めさせよう!
・主治医制を担当医制へ変えよう!

私たちは、このスローガンを中心としながらも、この第1期方針では明らかになっていなかった課題をより具体的な要求として掲げ、運動を進めるものである。

?労基法の遵守と不払い労働の根絶

・厚労省は全国の医療機関の宿日直勤務の許可及び36協定の事態を明らかにし、労基法の徹底を指導すること。

・時間外労働にあたる当直に関しては、労基法に基づいた時間外の割り増し賃金及び深夜の割り増し賃金を払うこと。

・名ばかり管理職の医師に、労基法に基づいた残業代を支払うこと。

・業務における待機等の拘束時間に関しては、適切な賃金を支払うこと。

・国は上記を可能にするために、適切な診療報酬の増額や補助金等の実施を行い、それが勤務医の労働条件の改善に結びつくような政策を実行すること。

?加重労働への対応

・月80時間の過労死ラインを超える36協定を結んでいる医療機関は、過労死ラインを超えないよう最大限の努力を払い、毎年改善を反映した協定を結ぶこと。

・32時間連続労働をなくし、当直翌日の休日化や半休等の対応を速やかに行うこと。

・労働安全衛生法を遵守し、勤務医の健康を守る取り組みを行うこと。

・住民に対し医療機関の医師体制の情報を公開して、住民の協力を求めること。

?大学院生への対応

・雇用契約を結んでいない大学院生に対して、即時雇用契約を結ぶこと。

・大学は、大学院生の労務管理を誠実に行うこと。

・大学院生の基本的人権が守られるよう労働環境を改善すること。

・国は、医学部及び大学病院に対して、十分な教育費・研究費を支出すること。