5月17日、全国医師ユニオン及び全医連が、厚労省交渉を行いました。

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勤務医に対する労働基準法違反の処遇に関する厚生労働省への要望書

2010年5月17日
全国医師連盟
全国医師ユニオン

現在、日本の医療は医師不足および医師の過重労働により崩壊の危機にあります。私たち全国医師連盟と全国医師ユニオンは、昨年、全国の主要病院における医師職に関する36協定の締結状況の調査を行いましたが、勤務医の労働環境に関しては、全国的な規模で労働基準法違反の実態が存在することが明らかになりました。
現政権は、日本の医師数をOECD諸国並みに増員することを掲げ、取り組みをはじめていますが、医師養成には長期の時間を要するために、当面医師不足が解決されることはありません。

この現状において、勤務医がこの現状において、勤務医が健康でやりがいを持って働ける環境を作るには、医師といえども勤務労働者の一員であることを銘記し、これまで勤務医の労働環境において軽視されてきた労働基準法が遵守されるようにすることが重要であると考えます。2010年4月1日施行の改正労働基準法は、長時間労働を抑制して、労働者の健康を増進するとともに、ワーク=ライフ・バランスを図ることを目的としています。ところが、勤務医に関してはワーク=ライフ・バランスどころか、多くの医療機関において、いまだに労働基準法そのものが無視されているという事実を深刻に受け止め、一刻も早く是正する必要があります。

今回の中央社会保険医療協議会(中医協)の議論では勤務医の過重労働が問題となり、医師の勤務実態を把握すること、また医師の勤務の負担を軽減するための方策を策定し提出することが、答申に盛り込まれています。そして高度医療や救急医療を担う基幹病院に勤務する医師らの負担を軽減するために、そうした病院に対しては診療報酬の重点配分が行われています。これらを一定の前進と評価し、今回の中医協方針を生かすことも必要であると考えます。しかし本来は、基本的な人権である生存権を脅かすような現在の医師の過重労働状況は人権侵害というべきであり、保険点数によって労働環境改善を誘導するまでもなく、当然に改められるべきです。

また、医療関係者をはじめ地域住民にも医師労働の現状を正しく知ってもらうことが重要であると考えます。現状では国民は、全国の医療機関の医師労働にどのような問題があり、どのような改善指導が行われているのか知ることさえできません。地域の拠点となる医療機関における労働基準法違反は、当該医療機関の問題にとどまらずに、周辺の中小の病院や診療所における勤務医の労働環境にも影響を与え、ひいてはその地域の医療全般のあり方にも大きな関わりを持つことになります。従って住民の協力を得るためにも情報の公開が求められています。

私たちは、厚生労働省が監督官庁として勤務医の労働条件の改善を進めるために当面以下の項目を実施することを要望します。

1) 全国の公的医療機関における医師職に関する36協定の締結状況および内容を公表すること。

2) 1カ月80時間以上の時間外労働を定めている医療機関への改善の指導を行うこと。(1カ月80時間以上の時間外労働は過労死との関連が強い(過労死ライン)と言われているため)

3) これまで、労働基準監督署から是正勧告が行われ、勧告に従った改善処置がなされた公的医療機関名と、その内容を公表すること。また、現在是正勧告が行われている公的医療機関名を公表すること。さらに、民間の医療機関も含めた実数を公表すること。

4) 救急告示病院等における夜間・休日にも医師の常態的な労働を前提とする業務は「当直」と呼ばれていても、労働基準法上は「宿直」ではなく時間外労働に該当すること、およびその場合の時間外賃金の計算方法を周知徹底させること。

5) 労働規準法上の「管理監督者」に該当しない、いわゆる「名ばかり管理職」に対しては、時間外手当てを支払う必要があることを周知徹底させること。

6) 勤務医の労働実態把握の徹底と改善計画の策定・実施を指導し、中医協方針実施の促進をはかること。

7) 200床以上の医療機関においては、労働問題の専門家である社会保険労務士や弁護士に医師労働の実態把握と改善策に関する法的な助言を受けることを義務づけること。(病院経営者の多くは、労働関係法規への理解が乏しく、現状では法令の遵守が困難であるため)

8) 過労死ラインを超えて長時間労働を行う医師への面接など、労働安全衛生法に基づく産業医の役割の徹底を指導すること。

9) 医師に対し拘束性のある待機を命じる待機時間(オンコール)について、これを労働時間として認め、賃金計算の根拠に含めるものとする通達を出すこと。(EUでは、自宅待機に関しても労働時間と認められており、国内でも「労働時間と判断される場合がある」との指導例がある)

10) 36協定の自動的な延長を実質的に定めている協定を結んでいる医療機関へ指導を行うこと。(36協定は労働実態に基づき年1回、労使の話し合いの上で締結することが原則であるため)

11) 雇用契約を結ばずに、大学院生を診療に従事させることを禁止すること。すでに診療に従事している場合は、即時雇用契約を結ぶよう指導すること。

12) 厚生労働省内に「勤務医の労働環境の改善及び労働基準法の遵守に関する検討会」を設置すること。また検討会の医師メンバーは勤務医を中心とすること。(別紙参照)

13) 医政局関連の検討会などにおいて、労働基準法に抵触する見解が出されることのないよう、医療行政において労働関係法制との整合性を保つこと。(これまでは医師および医療機関に対し、労働基準法違反の活動を求める見解が散見されたため)

14) 厚生労働省における労働関係部門の強化及び労働基準監督署の体制を強化し、各医療機関に対して労働基準法違反の是正指導を徹底すること。特に2010年4月1日施行の改正労働基準法が医療機関において遵守されるよう特別の指導体制をとること。

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補足資料

「勤務医の労働環境の改善及び労働基準法の遵守に関する検討会」の目的と体制についての提案

1)目的と検討内容
? 医師労働において、労働基準法の遵守を進めるための方策の検討を行う。

? 地域や医療機関の規模、また各診療科の勤務医の労働実態の把握と指導の在り方の検討を行う。

? この間、是正勧告を行った医療機関の改善の取り組み内容及びその効果を把握する。

? 医師労働改善の先進的で有効な取り組みの把握及び研究を行い、これを情報発信する。

? 先進7ヶ国(G7)における医師の労働条件や勤務形態の調査・研究を行う。

? 厚生労働省における医療政策が労働基準法の遵守を前提としたものとなり、その政策の実施が円滑に行われるよう問題点の抽出とその解決策の提案を行う。

なお、この検討会においては、勤務医の労働環境と労働基準法との関係に関する議論を中心に行うこととする。医師労働を軽減するための方策として、医療クラークやナースプラクティショナーのような補助職が代替する等の様々な取り組みが考えられているが、本検討会はこれらに関する検討を行うものではない。ただし、先進的な取り組み例などの把握や情報発信は行なうものとする。

2)体制に関して
委員は、厚生労働省の関係部門、医師、労働法の専門家(弁護士、社会保険労務士、研究者)、医療制度や医療経済の専門家等により構成する。
なお、医師の委員に関しては、勤務医を中心としこれに経営知識の豊富な病院管理者を加えるものとする。
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