2010年7月20日、中原利郎氏損害賠償訴訟に関する声明を発表しました

中原利郎氏損害賠償訴訟(小児科医過労死事件)に関する声明

2010年7月20日
全国医師ユニオン運営委員会

去る7月8日に、中原利郎氏損害賠償訴訟の和解が最高裁で成立しました。中原氏が亡くなられて11年、私たち全国医師ユニオンは、あ らためて中原氏の御冥福をお祈りするとともに、原告である中原のり子さんの闘いに心から敬意を表します。
中原氏の裁判は、医師の過労死裁判の中でも極めて重要な裁判でした。それは、労災認定に止まらず雇用する病院側の安全配慮義務ないし 注意義務違反を問うたこと。さらに裁判訴訟において、支援する会が結成され大きな運動が起き、医師の過重労働の問題を社会 に知らせ警鐘を鳴らしたことにあると考えます。

今日でこそ、医療崩壊により医師不足の問題が大きく取り上げられ、医師を増やす政策がとられようとしていますが、当時に あってはそのような社会的な動きは皆無であり、孤軍奮闘の中で厳しい闘いを粘り強く続けてこられたことは想像に難くありません。
今回、最高裁の和解条項には「裁判所は、我が国におけるより良い医療を実現するとの観点から、当事者双方に和解による解決を勧告し た」と述べられています。一審・二審の原告敗訴からみれば、これは明らかな前進であり、その背景には医療崩壊が大きな社会問題となり 医師の過重労働が社会的に認められてきたことがあると考えられます。昨年、鳥取大学大学院生の過労死裁判の判決が出されましたが、診 療に従事する大学院生が労働者であるかどうかを問わずに大学に対し一定の安全配慮義務違反があったことを認定しています。

今日の医師不足と医療崩壊は、個々の医療機関の責任ではありませんが、使用者である医療機関には、労働者である勤務医の労 働実態を把握し健康状態に留意する義務があります。

今回の、最高裁での和解を今後の「我が国におけるより良い医療を実現する」ために役立てるには、医師労働の現状をあらためて正しく認 識する必要があります。2006年の国立保健医療科学院政策科学部の調査では常勤医師の平均勤務時間は週63.3時間で、月の時間外 労働が99.7時間となり月80時間のいわゆる「過労死ライン」を超えています。医療の需要を増やす医学・医療の進歩と高 齢化は確実に進みますが、医師養成には10数年を要するため、当面の医師不足はさらに深刻になることは明らかです。

それにもかかわらず、最近のアンケート調査をみても、医師の勤務状態を完全に把握している医療機関は2割程度で、タイムカードを使用 している医療機関は3割程度に過ぎないとの結果が出ています。これでは医療機関が医師に対する安全配慮義務を守ることはできませ ん。

私たち全国医師ユニオンは、今年5月に厚生労働省に医師労働に関し14項目にわたる要請を行ないました。私たちの調査では、全 国の主要な医療機関で労働基準法違反や過労死基準を超える労働協定が多数認められるため、全国の医療機関における勤務医の労働に関す る情報公開を求めましたが、受け入れられませんでした。厚生労働省は、今回の最高裁における和解の意図を真摯に受け止めること。また、医師労働に関する実態の情報公開を行なうこと、さらに医療機関が医師の労働実態を適切に把握するよう指導を徹底するこ とを強く希望します。

本年4月より労働基準法が改正されました。これは長時間労働を抑制し、労働者の健康確保や仕事と生活の調和を図ること(ワークライ フ・バランス)を目的としています。各医療機関に対しては、過労死を防ぐことはもとより医師の健康確保と医療安全のために、勤 務医の労働実態を適切に把握し、地域住民の協力も得ながら、医師が健康でやり甲斐をもって働ける適切な診療環境を作ることを強く希望 します。

今回の診療報酬改定は、勤務医の負担軽減が一つの柱になっています。しかし、大多数の医療機関では勤務医の労働条件は改善されていま せん。勤務医が自ら声を上げることが必要です。私たちは、全国の勤務医に対して自らが自分の勤務時間を記録する運動を呼びか けます。また、不払労働の解消と診療環境の改善の要求を行なうことを呼びかけます。

最後に、全国医師ユニオンは中原先生の死を無駄にせず、国民の医療そして勤務医の健康と命を守るために、あらためて奮闘していく決意 です。