全国医師ユニオン公式ウェブサイト

声明

2015.1.27声明「過労死を推進しかねない新ホワイト・カラーエグゼンプションに反対する」

全国医師ユニオンとして、標記声明を発表しましたので、ご紹介いたします。

PDFファイル|過労死を推進しかねない対立する新ホワイトカラー・エグゼンプションに反対する声明

 

過労死を促進しかねない新ホワイトカラー・エグゼンプションに反対する

2015年1月27日

全国医師ユニオン

厚労省は1月16日に労働時間規制の適応外に関する「今後の労働時間法制等のあり方について(報告書骨子案)」を労働政策審議会分科会に示しました。新制度では「特定高度専門業務・成果型労働制」(高度プロフェッショナル労働制)と呼ばれる、ある一定の条件を満たす労働者の労働時間規制を外す制度を創設することが示されています。これは国民の大きな反発にあったホワイトカラー・エグゼンプションの焼き直しにすぎない「残業代ゼロ法案」と言えるものです。

政府は「時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニューズに応え」るとしていますが、高度な専門職の多くは大きな責任と過重労働を担わされており過労死も少なくありません。その事実は、過労死裁判をみれば明らかであり、過労死遺族の人たちが過労死防止法の制定を求め奮闘し、昨年6月に過労死防止法が制定されたばかりです。労働の過重性においては
?要求度が高いこと(失敗が許されないことなど)
?裁量度が狭いこと
?支援度が低いこと(他人の協力が得られないこと)
があると過重性が高いと言われていますが、「高度な専門職」の多くはこれに当てはまります。このような実態を無視して労働時間規制を外せば、使用者は経営的に残業代を気にする必要がなくなるため、多くの「高度プロフェッショナル」の労働時間が増加することは避けられません。

今回の対象業務は具体例として、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務、コンサルタントの業務、研究開発業務が上げられていますが、不確定で法案成立後に審議会で検討し省令で規定するとなっています。また、対象労働者は「使用者との間の書面による合意に基づき職務の範囲が明確に定められ、その職務の範囲内で労働する労働者」となっていますが、極めてあいまいで今後いくらでも拡大解釈することができます。今回は年収1075万円以上を対象とすることが検討されていますが、使用者側からはもっと年収を下げるべきであるとの主張が行われています。対象が広がれば、サービス残業が横行している日本においてはサービス残業を法的に認めることになりかねず、「ブラック企業支援法」・「過労死促進法」となる恐れがあります。そもそも、年収と過重労働は無関係です。

今回の制度では、健康のために時間管理を徹底するとされていますが、ただでさえ半強制的なサービス残業が横行している日本で、健康管理のためだけに時間管理が厳しく行われるなど考えられません。過労死裁判の例などをみれば、事業者が労働時間を実態に即して記録していないために遺族は労災申請を行うことさえ困難な状況です。また、制度では本人の合意を取るとされていますが、立場の弱い労働者個人が将来的な降格や出向・解雇などの不安を抱えながら拒否することは極めて困難です。

さらに、本制度の導入に関しては、労使委員会を設置し、5分の4以上の多数により可決することになっていますが、対象となる「高度の専門的知識等」を持つ労働者は労働組合に入っていないことが想定されます。労働組合では、職種や役職により組合員になる資格がない場合があります。労働組合は組合員の利益を代表する組織であるため、組合員ではない対象者を守る立場にはありません。医師を例にとると、ほとんどの病院の労働組合は医師の入会を認めていません。従って、多くの病院の労働組合は、医師労働の改善を求めていません。当事者が入れない労使委員会の議決は欠席裁判とも言えるものです。

また健康管理に関して、厚労省が省令で定める時間を超えるものに対しては、医師による面接指導の実施を義務付けることが適当と示されていますが、企業に雇用された医師による面接指導にどれほどの効果があるのかは疑問です。果たして、労働者は自分に不利になる健康に関する個人情報を信頼関係のない医師に話すことができるのか。医師は短時間の面接で労働者の健康状態を把握し適切な指導を行うことができるのか。これらの点に関しては不明であり、医師の面接を行ったことで健康管理の責任を果たしたとは言えないでしょう。

ここで年俸制について誤解があるために触れておきますが、年俸制は残業代を支払う制度です。あらかじめ、1年間の残業時間を設定し契約書にも明記してその賃金を支払わなければなりません。もし設定した残業時間を超える場合は超えた時間の残業代を払わなければなりません。今回の制度とは全く異なるものです。

ILO(国連の労働問題に関する機関)は、労働時間の上限を設定する勧告を出していますが日本はこれを批准していません。日本の労基法には、一定の労働時間を超える労働には割増賃金を課すことで、長時間労働が起きないように経営的なインセンティブが働く仕組みが作られています。しかし割増賃金どころか残業代そのものの不払いが横行しているために、過重労働が一向になくなりません。「カロウシ」という言葉が日本で生まれ国際語となった理由もここにあると考えられます。

私たちはこの制度自体に強く反対しますが、巨大与党が強引に法制化する可能性があります。さらに、法律の趣旨とは異なった恣意的な拡大解釈が行われ医師労働に適応される危険性があるために、この制度と勤務医との関係について触れておきます。

まず、この制度は「時間に縛られず創造的な仕事をする人のニーズに応える」ことが目的とされていますが、保険診療を行う一般的な勤務医は強い時間的な拘束を受けています。医療の対象は病気ですから、患者の病状に応じて治療を行う必要があります。医療体制は24時間365日ですから、地域や医療機関の医師体制の状況に応じた勤務が要求されます。外来診療においても予約は数か月先まで入っておりよほどの事情がない限り、少々の体調不良があっても変更することは困難です。また病棟回診や手術・カンファレンスなども医療スタッフによるチームで行われるため医師個人には時間的な裁量権はありません。

勤務医労働実態調査2012では、当直を担う勤務医の大半が30時間を超える連続労働を担っています。ちなみにEUでは医師の労働時間は週48時間以内と決まっています。調査では、「健康に不安」や「病気がち」と答えた医師は半数近い46.6%にも上っています。また、「最近やめたいと思うこと」の問では「いつもあった」と「時々あった」で33.8%、「まれにあった」も含めると61.7%にも上っています。また、現場の医師からみた医療過誤の4大原因は、「医師の負担増」(57.5%)、「時間の不足」(57.5%)、「スタッフの不足」(55.7%)、「過剰業務による疲労」(55.0%)となっており安全性も脅かされ、医師の精神的な負担となっています。

この実態は、労基法をはじめとする労働法がほとんど守られていないことに原因があります。この間の医師の過労死裁判等を通して、勤務医は労働者であり労基法が適応されることがやっと明らかにされてきました。私たちも、医療機関が労基法を守ること、医師の労働時間管理を徹底すること、残業代を法律に基づき支払うことで長時間労働が減るように運動を進めてきましたが、今回の制度はこれまでの過労死家族や私たちの取り組みを無に帰すものです。

医師数抑制政策は勤務医の労働強化にほかならず、日本の医療崩壊を引き起こしました。今回の制度が歪曲されて医療に持ち込まれれば、医療崩壊はさらに進行することになるでしょう。今求められていることは、過労死防止法を実効性のある制度として根付かせることであり、日本の医師労働をグローバル・スタンダードに基づき正常化させることです。
今回の成長戦略に基づく労働法の規制緩和は、日本の労働者を苦しめ未来を暗くする「ブラックカラー・エグゼンプション」と言わざるを得ず、私たちは強く反対するものです。


声明を発表「誤った医療事故調査制度が医療崩壊を進めることを危惧する」

全国医師ユニオンが声明を発表しました。ご紹介いたします。

PDFファイル|医療事故調に関するユニオン声明

誤った医療事故調査制度が医療崩壊を進めることを危惧する

2014年8月29日

全国医師ユニオン

はじめに

医療事故調査に関する医療法の改正が6月の国会で成立し、医療事故調査に関するガイドラインの策定に向けて公費の研究班による準備が進められています。これまで医療事故調査に関しては、厚労省の検討会等でも議論されてきましたが、その過程において現場医師から多くの批判がよせられてきました。また国会での審議では19もの法案が一括採決されるなど十分な議論が尽くされることもなく法律自体も危惧される点が残されたままです。このように医療事故調査に関する法律は医療崩壊と言われる厳しい現場で診療する医師の意見を反映することなく、不審を持たれたまま国会を通過しました。しかもガイドラインのために作られた研究班の会議には現場医師の意見が反映されるどころか内外からの批判が相次いでいます。会議自体が非公開であるうえ、会議で合意を得ていないことを研究班の代表が合意したかのように記者会見で述べています。このため日本医療法人協会から撤回を求められ、会議に関する厚労省のホームページの修正がなされました。また、研究班の会議では今回成立した法律を逸脱した議論が行われているとの批判も上がっています。そして、この事態に危機感を持つ医師らの「現場からの医療事故ガイドライン検討委員会」が、独自のガイドライン案を発表するに至りました。その内容は、現実に即しており基本的にあるべき姿のガイドラインであると考えます。

私たちは現状のままでは、今回の医療事故調査に関する制度が更なる医療崩壊の進行を助長する危険性が高いと危惧し、以下に問題点の指摘と提言を行うものです。尚、この問題は患者・国民にも理解していただくことが重要であり説明に多くを割いたために、長文の声明となっていることをご了承ください。

1)医療事故調査に関する法律の根本的な問題点

今回の医療事故調査に関する法律には根本的な問題がありました。それは「医療安全(再発防止)」と「患者の救済」という二つの問題です。この二つは全く別の問題ですが、この二つを無理やり一つの法案に入れてしまったことが大きな混乱を生んでいます。

多くの医療事故は複雑な要因が何重にも絡み合って起こるもので、一つの原因で起こるわけではありません。従って、再発防止には事故にかかわる全ての要因を洗い出し分析した上で危険因子を取り除いた何重もの安全策を講じたシステムを作ることが必要です。このためには事故に関連する全ての医療スタッフの自由な発言が前提条件となります。一方、患者の救済は患者や遺族への説明及び経済的保障が課題となるので、どうしても責任問題が出てきます。事故に関する保険は医療機関や医師個人が入っているために個人の責任を特定しなければ保険金はおりません。一般的に「原因究明」という言葉が使われますがこれは「個人責任の特定」と同じ意味を持ちます。医療機関や医師と患者・家族の関係が悪い場合や説明に納得が得られない場合には医事紛争となり刑事や民事での争いに発展します。

WHO(世界保健機関)はこの点を考慮して、再発防止のための事故調査には関係者全員が自由に問題点を話し合うことができる環境が必要であるとし、事故調査のガイドラインの中で調査資料や結果の秘匿性が必要であること、また罰則に使用しないことが重要であることを強調しています。自分の発言が自分または他の医療スタッフの個人責任の追及や逮捕につながるとなれば、自由な発言や議論は望めません。従って、この矛盾を生まないためには再発防止と患者の救済を別の制度に分ける必要があります。もちろん患者の救済は重要な問題なので、正面から議論を行い必要な制度を作るべきです。

2)医療安全に関する法律とすべき

今回の医療法改正では「医療事故調査・支援センター」(以下、支援センターと呼ぶ)が新設されることになっており、その目的は「医療の安全の確保に資すること」とされています。本来は医療安全の問題なので法律としても医療安全に関する法律を作り、その中に医療事故調査が含まれるべきでした。しかし実際には医療安全の問題を議論せずに事故調査の議論だけが行われてきました。その証拠に厚労省の事故調査の委員会には安全の専門家が一人も入っていませんでした。事故調査の目的は再発防止とされながらが、調査の結果をもとにどのように再発防止を実現するのかは全く議論されていません。

最近、脊髄の造影剤を間違えたことから死亡事故が起こりました。同様の脊髄造影剤の事故はこれまで日本で少なくとも7件あり全て該当医師に刑事責任が問われ全員が有罪になっていますが、再発防止に全く生かされず再発が続いています。ダブルチェックの徹底は当然として、薬剤のパッケージ表示の大幅な改善や専用キットの使用などは有効性が高い方法ですが、これらの方策は取られていません。にもかかわらず、今回の医療法改正ではこのような改善策を考え実施させるシステムがありません。法律では支援センターの業務のなかに「医療事故の再発の防止に関する普及啓発を行うこと」と書かれているだけです。通達だけでは、何も変わりません。安全対策には多大なマンパワーやコストがかかりますが、この点には全く触れずに何の対策もありません。必要なのは、医療安全を阻むものは何かを明らかにし、これを防ぐ手立てを考えて実行することです。

3)医療現場の実情と医療崩壊進行の危惧

私たちがおこなった「勤務医労働実態調査2012」によれば、現場の医師からみた医療過誤の4大原因は、「医師の負担増」(57.5%)、「時間の不足」(57.5%)、「スタッフの不足」(55.7%)、「過剰業務による疲労」(55.0%)となっています。医事紛争の経験についても調査していますが、20.9%の医師が経験「ある」と答えています。年齢別では20歳台の1.6%に比べ60歳以上は38%で、長く医師を続ければ多くの医師が医事紛争を経験することを示しています。また、医療トラブルによる精神的ストレスに関して「診療に支障をきたすストレスがある」と答えた医師は16.4%に上ります。この実態を真摯に受け止めるべきです。

そもそもスタッフ不足や過重労働による医療事故は国として予見できるものです。EUでは安全性の視点からも医師の労働は例外なく週48時間が上限とされています。人口当たりの日本の医師数は世界で64番目であり、先進国最低の医師数となっています。医療費抑制政策で作り出された絶対的な医師不足の下で、日本の医師は過労死ラインを超える過重労働を担っています。日本の救急専門医は人口あたりアメリカの十分の一に過ぎません。スタッフ不足の中で様々な診療科の医師が自分の専門を超えて懸命に救急医療を支えています。しかし現在の法律では、過酷な長時間労働を行った結果により医療事故を起こしたとしても、事故の責任は善意で働いた医師個人が負わされることになっています。医療従事者を追い込めば追い込むほど、リスクの高い患者は取れない、リスクの高い治療は行えない、スタッフが十分にそろわない場合は救急車を断るしかない、などの委縮医療が進行します。またリスクの高い診療科には医師が集まらなくなり医療現場が荒廃し、結局は患者の医療を受ける権利が失われていきます。

4)求められる支援センターのありかたとガイドラインの内容

まずは、ガイドラインの議論がオープンとなること、また病院内の調査と支援センターの調査のいずれにおいても、改正医療法と憲法が遵守されることが前提であり、WHOのガイドラインが尊重されることが求められます。支援センターは、医療機関から依頼があった場合に院内の事故調査を支援することになっていますが、支援センターは捜査機関ではなく裁判所でもありません。法律上、「医療安全の確保に資すること」を唯一の目的とした機関です。一方で「医療事故が発生した病院等の管理者または遺族から当該医療事故について調査の依頼があったときは、必要な調査を行うことができる」とされています。一般的に考えて、遺族が支援センターに調査を依頼する場合は、医療機関とすでに対立状態にあると考えられます。支援センターは「管理者に対し、・・・説明を求め、又は資料の提出その他必要な協力を求めることができる」また医療機関側は「これを拒んではならない」とされ、実質的な捜査権限を持っています。このために、遺族は医療機関側とは異なる説明を支援センターに期待することになりますが誤解を防ぐためにも、支援センターは医療安全の組織であり、捜査機関や司法機関としての役割を担っていないことを明確にする必要があります。

また、支援センターは目的のために「収集した情報の整理及び分析を行う」となっています。ガイドラインでも支援センターは医療事故の「整理及び分析を行う」のみであり、事故の原因特定について判断する組織ではないことを明確にするべきです。同時に事故報告書は、「医療安全の確保に資する」ことに限定して書かれるべきで、決して紛争に利用されない内容としなければなりません。

産科医療には保障制度がありますが、その第三者機関(支援センターにあたるもの)は、ほとんどの場合において該当医師に全く話を聞くことなく調査報告書を作成していると聞きます。これでは事故の本質やその背景を知ることはできません。再発防止には個人の責任を問うことではなく診療環境やシステムの改善が重要です。その医療機関で安全対策がどのようにとられていたのか、2重・3重のチェックの実態、スタッフの体制(適正にスタッフが配置されていたか)、スタッフの労働条件や健康状態、スタッフの教育や研修状況などは最低限でも調査され再発防止に生かされるべきです。

5)医師の人権に関する憲法違反の懸念

医師は一国民であり、憲法に保障されている基本的人権を有していますが、医療現場においては医師の人権が踏みにじられている実態があります。そもそも労基法が全く守られていません。今回の医療事故調査制度では、医師は無条件で調査に協力しなければなりません。このことは一見当然のようですが、これがもとで逮捕されるような環境下では憲法に反することになります。どんな犯罪者に対しても例外なく黙秘権や弁護士を付ける権利が保障されています。これは権力の行き過ぎを防ぎ冤罪などから国民を守るために作られている人権擁護のための制度です。今回の医療事故に関する制度では憲法に守られた医師の人権を侵害する恐れが懸念されていますが、憲法に保障されている権利や最高裁判決を無視した法律や通達・ガイドラインなどは許されません。医師の人権は、病院内の調査でも、支援センターの調査でもしっかりと守られなければなりません。

一部に医師に対してだけ甘いとの意見も見受けられますが、冤罪を起こした警察官や検察官は訴えられることはありません。裁判官が誤った判決を出しても訴えられることはありません。さらに公務員も過ちを犯しても犯罪ではない限り個人が訴えられることはありません。これらの人たちは仕事の委縮を防ぐために、法律によって個人責任が問われないよう保護されているからです。医師を守るこのような法律はありませんが、最低限、憲法で保障されている人権を守ることを強く求めるものです。


 

奈良病院医師の宿日直勤務の時間外手当請求判決に関する声明を発表

今回の判決は、長時間の過重労働下に苦しむ勤務医にとって極めて重要なものであり、過労死をはじめとする日本の異常な勤務医労働を改善するうえで、大きな一歩と言えると、下記声明を発表しました。また、厚生労働大臣あてに同内容の要請を送りしました。

PDFファイル|奈良病院の医師の宿日直勤務の時間外手当請求判決に関する声明2013.2.15

PDFファイル|奈良病院の医師の宿日直勤務の時間外手当請求判決に関する要請2013.2.15

 

奈良病院医師の宿日直勤務の時間外手当請求判決に関する声明

 

2013年2月15日
全国医師ユニオン

報道によれば、2月12日に最高裁判所第3法廷は奈良県側の上告を退けました。今回の決定は、長時間の過重労働下に苦しむ勤務医にとって極めて重要なものであり、過労死をはじめとする日本の異常な勤務医労働を改善する上で大きな一歩と言えます。

本裁判は、奈良県立病院の医師がいわゆる「日当直」と呼ばれる休日や夜間の診療は時間外労働であるにもかかわらず、「宿日直勤務」扱いとされていたために労働基準法違反として訴えていたものです。「宿日直勤務」とは、ほとんど通常業務をしなくてよいもので、通常の賃金の3分の1以上の安い賃金で夜間や休日に労働させることが可能なものです。しかし、救急医療や重症者の診断・治療を24時間体制で行なう医療機関においては、休日や夜間の「日当直」は通常業務が常態化しており、「宿日直勤務」ではなく時間外労働になります。厚生労働省も2002年の通達「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」において、「宿日直勤務」とは「当該労働者の本来業務は処理せず、構内巡視、文書・電話の収受又は非常事態に備えて待機するもの等であって常態としてほとんど労働する必要がない勤務である」と明確に述べています。しかし、多くの医療機関では、時間外労働にあたる「日当直」が「宿日直勤務」とされたままで、医師の長時間過重労働の温床となっていました。日本の勤務医は、通常勤務に引き続き当直勤務をおこない、さらに翌日の通常勤務を連続して行なうために32時間を超える長時間労働が強いられています。今回の裁判でも、一審・二審ともに奈良県は原告医師に割増賃金を支払う義務があるとの判決が出ましたが、奈良県側は最高裁に上告していました。

国連の労働に関する専門機関であるILOは、1日や1週間の労働時間の上限を定める勧告を行なっていますが、日本はこれを批准していません。従って日本の労働基準法は不十分な面がありますが、労働時間が長くなれば長くなるほど割増賃金を増やすことで、長時間労働を抑制する制度を採っています。本来であれば医師に長時間労働をさせれば人件費が増え経営効率が悪くなるために、交替制勤務を導入するインセンティブが働くことになります。しかし、現状では休日・夜間の時間外労働を「宿日直勤務」とすることや医師聖職論によるサービス残業が常態化しているために、医師だけ交替制勤務の導入が進んでいません。ちなみに、EU諸国では安全性の視点から、1週間の勤務医の労働時間は待機時間も含めて48時間と決められており、例外を認めないとされています。尚、今回の裁判においては、医師が患者の安全性を目的に自ら行なった自宅待機に関しては、業務命令ではないために労働時間には当らないとされました。患者の安全性を守る行為を、医師個人の問題に矮小化している点には問題があります。

全国医師ユニオンは、昨年実行委員会を起ち上げ「勤務医労働実態調査2012」を実施しました。今回の調査結果では、当直時に「通常業務はほとんどなし」と答えた医師は15%のみで、当直の85%は時間外労働であると考えられます。当直明けに連続した1日勤務は79%でした。また、安全性の点からは、医療過誤の4大原因として「医師の負担増」「時間不足」「スタッフの不足」「過剰業務による疲労」との回答が寄せられました。さらに、この2年間で業務負担が増えたと答えた医師は44%にものぼり、業務負担が減ったと答えた医師は17%にすぎませんでした。政府や厚生労働省は勤務医の負担軽減を掲げていましたが、現場の医師の労働環境は悪化し、医療の安全性も脅かされています。

私たちは、監督官庁である厚生労働省をはじめ各医療機関は今回の最高裁判所の決定及び一審・二審の判決を重く受け止め、労働基準法遵守を勤務医にも徹底することを強く求めます。


2011年12月21日「時間外賃金支払い訴訟和解に関する声明」を発表

医師ユニオンとして、産婦人科医の当直時の勤務内容が、時間外労働としての訴訟に、敬意を表するものです。

厚生労働大臣あての「勤務医の時間外賃金不払い是正に関する要請」とあわせ、「産婦人科による時間外賃金訴訟の和解に関する声明」を発表したので、ご紹介します。

産婦人科医師による時間外賃金訴訟の和解に関する声明

2011年12月21日
全国医師ユニオン

報道によれば、愛知県の刈谷豊田総合病院に勤務していた産婦人科医師が、通常の労働をする必要がない宿直勤務中に分娩や帝王切開手術などをやらされていたことから、これらの労働は宿直ではなく時間外労働にあたるとして、病院側に時間外労働としての賃金の支払いを求める訴えを起こしていた。原告の医師は「2009年4〜9月、この病院に勤務。夕方から翌朝までの宿直を月3〜4回、休日の朝から翌朝までの日直兼宿直を月1〜2回担当した」とされている。そして「医師は、病院の就業規則で決められた時間外勤務の割増率に基づいて賃金を計算。受け取った当直手当を差し引いた280万余円を支払うよう求め、10年9月提訴した」とされている。本年12月15日の名古屋地裁での和解では「医師が求めていたほぼ全額の280万円を病院が支払うことで双方が合意し、和解が成立した」とされる。これは、原告の完全勝利と言える内容である。聞くところでは、今回訴えを起こした医師は、日本の勤務医への不当な労働基準法違反を是正することを目的として起ちあがったものであり、この医師の行動に敬意を表するものである。

医師の当直と呼ばれるものは、法的には宿直と時間外労働の二つに分けられる。宿直とは、「本来業務は処理せず、・・・常態としてほとんど労働の必要がない勤務」とされている。従って、労働基準法で定める労働時間である1日8時間・週40時間を超える分娩や手術はもちろんのこと、救急医療や重症者の治療等を想定した当直や日直は、「ほとんど労働の必要がない」宿直ではなく時間外労働として認められなければならない。

勤務医の当直問題に関しては、先に奈良県立病院の産婦人科医師が、宿直とされていた業務が実態として時間外労働であるとする訴えを起こし、奈良地裁での実質勝訴に続き、大阪高裁でも実質勝訴を勝ち取っている。奈良県は最高裁へ上告しており、最高裁での結論はまだ出されていないが、厚生労働省は2002年に「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」という通達を出し、宿日直勤務は「病室の定時巡回、少数の要注意患者の定時検脈など軽度又は短時間の業務のみが行われている場合」とし、各病院団体にも適正化の要請を行っている。本来業務を行う当直を宿直扱いにすることは、勤務医の過重労働の元凶であり、医療崩壊の原因でもあり直ちに改善する必要がある。

私たち全国医師ユニオンは、最高裁判所に労働基準法に基づいた適正な判断を早急に示すことを求めるものである。また、医療の24時間体制を維持しながら労働基準法を遵守するためには、医師の交代制勤務が必要である。文部科学省にはこれを可能にする医師数を明らかにし、必要な医師養成をおこなうことを求める。財務省には、勤務医への不払い労働をなくすことが可能な、診療報酬への予算処置を行うことを求める。そして、厚生労働省には、労働基準監督署が医療機関に適切な指導を早急に行うことを求めるとともに、各病院団体へ夜間の分娩をはじめ救急医療や重症者の治療を担う医師等の当直を時間外労働として認めるように指導することを求めるものである。


2011年12月13日「診療報酬の引き上げを求める緊急声明」を発表

PDFファイル|診療報酬改定に関する緊急声明

 

診療報酬の引き上げを求める緊急声明

2011年12月13日
全国医師ユニオン

来年度の診療報酬改定に関して、財務省が厚労省に2.3%引き下げるように提案したとの報道がなされている。報道によればこれに先立つ財務省によるヒアリングにおいて医療側からも診療報酬引き上げの声はなかったとされている。

しかし、医療崩壊と言われる現状が医療費抑制政策によって引き起こされたことは明らかであり、現政権与党のマニフェストにもOECD平均並みに医療費を引き上げることが明記されている。前回の診療報酬改定は、それまでの政権と異なり前向きではあったが微増にとどまり、医療崩壊から医療再生へ向かう抜本的な改革にはほど遠いものであった。多くの医師は医療の再生に診療報酬の増額は不可欠であると考えている。

私たち全国医師ユニオンは勤務医の労働条件・労働環境の改善を掲げて、厚労省への要請行動などの活動を行っているが、勤務医の労働基準法違反はほとんど改善されていない。この労働基準法違反の大半は、長時間労働と時間外労働の不払いであり、とりわけ当直と呼ばれる時間外労働ではほとんどの医療機関で労働基準法にもとづいた正規の賃金が払われていない。この不払い労働は、24時間体制を担う勤務医への安易な過重労働の温床となっており、これら勤務医の意欲をそぎ、24時間体制を担う医師の減少を引き起こしている。そして多くの地域では過重労働に起因する医師の退職が病院の縮小や閉鎖の原因となっている。

報道によると財務省は一般賃金や物価の下落を理由にして、医療費の削減を求めているが、私たち全国医師ユニオンは勤務医の賃上げを求めているのではなく、違法な不払い労働をなくすことを求めている。厚生労働省は勤務医の不払い労働に関する調査を行っていないため、実際の額は不明であるが、不払い賃金は2000億円近い可能性があり、病院経営の悪化が不払い労働の口実となっている。

医療崩壊と言われる現状での診療報酬の引き下げは、さらなる医療崩壊を加速し、国民が必要な医療を受けられなくするものである。財務省は診療報酬の引き下げで1兆円の国民負担が軽減できるとのべているが、必要な医療提供ができなくなることで、国民負担が減るという考えは本末転倒である。日本の医療費は先進国最低であり、これを引き上げることで、崩壊が進んでいる日本の医療を再生することこそが求められている。

私たち全国医師ユニオンは、民主党には政権政党として医療再生のマニュフェストを実行することを求めるものである。また財務省には今回の診療報酬減額の提案を撤回し、増額に転換することを強く要求するものである。また、厚労省には医療再生はもちろんのこと、勤務医への不払い労働を是正することが可能な診療報酬を要求するとともに、勤務医の労働基準法違反に厳しく対応することを求めるものである。

 

2011年6月25日 ドクターズ・デモンストレーション2011 記者会見を開催

1)趣旨

私たちは、医療崩壊と呼ばれる医療の危機に際して、この秋に医師・歯科医師として国民に向けた大きなアピールの企画を行うことにしました。2012年度の医療・介護報酬の同時改定は、日本の医療再生にとって極めて重要です。2009年総選挙での民主党マニュフェストでは、医療再生のために1兆2000億円程度の緊急予算やOECD平均の医療費をめざすことが謳われていましたが、現実は診療報酬0.19%増という微増に終り、医療再生にはほど遠い結果に終わりました。私たちは「医療再生に必要な診療報酬の改定」を求め、これまでにない大きな運動を起こすことが必要であると考えています。

この度は、東日本大震災という未曽有の危機がありました。私たちは、かかる大震災後にこそ、被災地の医療・福祉の再生にとっても、国民皆保険を守るアピールや診療報酬の増額の要求が必要であると考えました。そして、震災復興における医療・介護面での国の責任による解決を求めることを、目的の一つとしました。大震災を受けて診療報酬の改定が延期される可能性もあるかに聞き及んでいますが、仮に延期となっても、現場の医師が医療再生に必要な発信を行うことは極めて重要であると考えます。

これまで、日本を代表する多くの方がこのままではいけないと危機をつのらせ大きな運動が求められていると語っています。そして、デモやストの必要性を語る方もおられます。日本においては1961年の国民皆保険開始に先立って、東京医師会の呼びかけで8000名の医師が集まり、集会とデモ行進を行った歴史があります。

私たちは、「呼びかけ人」の方々と共に、一人でも多くの医師・歯科医師の方々に呼びかけを行い、医療再生へ向けたメッセージを集めて具体的な要請文を作成し、11月20日(日)に1000名規模の医師・歯科医師の集会とドクターズ・ウォークを目指すものです。そして、全ての国会議員及び厚生労働大臣と財務大臣に要望書を渡したいと考えています。

またこれに先立ち、9月23日に宮城県で「震災と医療再生」(仮題)に関するシンポジウムを開催することや10月に医師・歯科医師によるドクターズ・ランニングの企画も検討しています。

私たちは、医療崩壊の現状を多くの国民に理解していただき、医療費抑制政策から医療再生への転換をはかり、国民が安心できる医療を実現させるために、多くの医師・歯科医師の方々が参加することを心から呼びかけるものです。

2)組織と体制に関して

・世話人会について   呼びかけ人の中から世話人を選び、世話人で運営を行う。

・呼びかけ人に関して  2段階で集める。
第1次:各組織及び著名な医師・歯科医師(本日発表分:別紙参照)
第2次:著名医師をはじめ、全ての医師の国会議員、医学部長病院長・歯学部長及び
全ての地域医師会長等に要請を行う。
医師・歯科医師以外の医療関係者、患者の方々やジャーナリスト・弁護士等の市民にも要請を行う。
・賛同人について(一口1000円で賛同人になっていただく)
各都道府県を中心に、参加できる医師・歯科医師を中心に集める。
目標は1000名とする。締め切りは10月末とする。
・その他、可能な都道府県は実行委員会を作り医療再生に関するシンポジウム等を行う。
*呼びかけ人・賛同人は、随時ホームページ、ニュースで公表する。

3)主な企画

1) 医師・歯科医師の医療再生メッセージを集める。(厚労省・国会議員等に渡す)

2) 医療再生に必要な政策の要請文を作り、厚労省・財務省等・国会議員に渡す。
3) 「震災と医療再生」(仮題)シンポの開催
宮城県にて9月23日(金・祭日)午後 シンポジウムを行う。
4) ドクターズ・ランニング(詳細は未定)
10月の日曜日に全国各地で、医師・歯科医師が走ってアピールする企画を行う。
5) ドクターズ・ウォーク
11月20日(日)午後 日比谷野外音楽堂にて集会開催、その後デモ行進を行う。

4)宣伝等

・ポスター・チラシ・ニュースを3回程度作り発送する。

・バッジを作り、賛同者に1個、1000円で買ってもらい、運動を広げる。

■呼びかけ人

(五十音順)

井上博之(松島海岸診療所歯科医師)
色平哲郎(佐久総合病院)
植山直人(全国医師ユニオン代表)
宇佐美宏(全国保険医団体連合会歯科代表)
榎木英介(病理医・科学ジャーナリスト賞2011受賞)
香山リカ(立教大学教授・精神科医)
北澤彰浩(日本医労連医師対策委員会委員)
黒川 衛(医療再生フォーラム21世話人)
今田隆一(宮城県災害拠点病院 坂総合病院院長)
住江憲勇(全国保険医団体連合会会長)
遠山義浩(小樽脳・循環器病院理事長)
中澤堅次(NPO法人医療制度研究会理事長)
中島恒夫(全国医師連盟代表)
日野秀逸(東北大学名誉教授)
藤末 衛(全日本民医連会長)
邉見公雄(赤穂市民病院名誉院長)
本田 宏(NPO法人医療制度研究会副理事長)
牧田俊則(大阪赤十字病院 循環器内科)
宮沢裕夫(松本歯科大学大学院教授)

 

ドクターズ・デモンストレーション2011
〜震災復興・医療再生ドクターズ・ウォーク〜 スローガン・要請項目(案)

■スローガン(案)

・東日本大地震被災者の命と健康を守ろう

・日本の医療を守ろう
・国民皆保険を守ろう
・医療難民・介護難民をなくそう
・医療従事者の健康と生活を守ろう

■要請項目(案)

・東日本地震被災者の医療・介護保険の保険料と自己負担の長期的な免除(減額)

・OECD並みの公的医療費
・保険財政への国庫負担の増額
・無保険者の救済
・患者負担の軽減(窓口負担の軽減)
・必要な医療には全て保険適応を
・ドラッグ・ラグの解消を
・ワクチン無料化の推進
・医療における消費税の0税率
・企業に応分の保険料負担を
・OECD並みの医療技術料の算定
・OECD並みの勤務医の労働時間を目指した医師数養成
・OECD並みの医学研究費
・OECD並みの医学教育費
・療養病床の削減中止
・医療スタッフの養成数の増員
・医療安全従事者の配置コスト
・現状に合わない古い医師法の改正
・保険適用の範囲を広げ、保険で良い歯科医療の実現を
・歯科技工士、歯科衛生士の技術と労働の適正な評価を
・介護職員が生活できる介護報酬
・医療・介護での雇用の拡大


 

2010年10月7日 厚労省の「必要医師数実態調査」に関する声明

2010年10月7日
全国医師ユニオン

1)はじめに

2010年9月29日に厚生労働省から「病院等における必要医師数実態調査の概要」が発表されました。

この調査は、初めて現場の実態を調査したという点で一定の評価をすることはできますが、大きく誤った認識を国民に与える可能性が高いと考えられます。新聞報道などをみれば、日本で不足している医師の数が2万4千人であるとの印象を与える記事が多く、この数字が一人歩きすることを危惧します。

私たちはこの調査の問題点を明らかにするとともに、関係省庁である厚生労働省・文部科学省・財務省に、本来あるべき医師数を明らかにし医療再生へ向けた医師増員と公的医療費・研究費・教育費の増額を求めるものです。

2)国際比較でみた日本の医師数の現状

日本は80年代から医師数抑制政策をとってきました。医師数抑制政策とは医師数の削減ではなく、医師数の増加率の抑制です。医療技術の進歩と高齢化の進行で、OECD諸国ではこの20年間で医師数は1.5倍に増えています。

そのために国際比較でみると、日本の人口当たりの医師数は、世界196カ国の中で63位であり、高度な医療を行う先進国では極めて少ない数になっています。さらに、多くの国の医師数が実働医師数であるのに対して、日本の医師数は医師免許を持っている全ての医師の数であり、高齢ですでに引退している医師や出産・育児等で仕事を離れている医師も含まれています。

OECD加盟国の人口1000人当たりの医師数が平均3.1人に対して、日本は2.0人という状態であり、OECD並みの医師数にするためには、最低でも現状の1.5倍の13万人の医師を増やす必要があります。しかし今回の調査結果では、日本の医師数を1.1倍にすれば必要医師数はみたされるとの誤解を招きかねません。今回の調査は、使い方を誤れば、これまでの医師数抑制政策を肯定することになりかねないということです。

3)今回の「必要医師数」の問題点

今回の「必要医師数実態調査」は、全国の病院と分娩取扱い診療所へ調査票記入を依頼し集計したものであり、各医療機関の意識調査というべきものです。必要医師数は「地域医療において、現在、医療機関が担うべき診療機能を維持するために確保しなければならない医師数」となっており、各医療機関の経営的視点も含めた主観的調査にすぎません。

地域によっては、医師不足により医療機関が廃院となっている地域もありますが、病院が存在しない地域の必要医師数は0人となってしまう調査です。また、病院調査の回収率が88.5%となっていますが、未回答の病院の必要医師数は反映されていません。さらに、今回の調査は一般の診療所は調査対象ではなく、地域で不足している診療所医師数は調査すら行なわれていません。このような調査で日本の必要医師数を論ずることは不適当といえます。あくまで各医療機関の求人に対する意識を知るために活用すべきデータです。

今回の調査の最大の問題点は、現在の低い診療報酬や医師の労働基準法違反を前提とした調査になっていることです。様々な医療問題を解決する上でのあるべき医師数と病院経営上可能な医師の求人とは全く別のものです。現在病院の約7割は赤字であり、地域的に必要であっても、病院の経営が許す範囲でしか医師の増員は検討されていないと考えるべきです。

また、医師の過重労働が労働基準法を無視して蔓延しており社会問題化していますが、厚生労働省の調査であるにもかかわらず、この問題を解決する視点が全くありません。厚生労働省の「医師需給に係る医師の勤務状況調査」(2006年)でも勤務医の1週間の労働時間の平均が63.3時間と、いわゆる過労死ラインを超えており、医療の安全性の面からも深刻な問題となっています。医師の当直では30時間を超える長時間連続労働が問題となっていますが、これを解決するには欧米では常識となっている交代制勤務の導入しかありません。今回の調査では、交代制勤務を導入している病院は9.2%となっていますが、当直で過重労働を強いている全ての医療機関で交代制勤務を導入した場合の医師数を調べることが重要です。

厚生労働省は、今年4月に労働基準法を改正し労働者のワーク・ライフ・バランスの重要性を強調していますが、同一省庁としての一貫性が見られず残念といえます。

4)求められる必要医師数の調査・研究

?過重労働の解消と安全性の視点

日本病院会の勤務医に関する意識調査(2007年)では、「当直の翌日も普通の勤務をしている医師は88.7%」であり、 71%の医師が「慢性疲労を訴え」ています。また、医療過誤の原因として「過剰な業務のために慢性的に疲労している」が71.3%に上っています。

医労連「医師労働実態調査」(2007年)では、3割近くが「前月の休みゼロ」 であり、4割以上の医師が「健康不安・病気がち」 と答え、5割の医師が「職場を辞めたい」 と考えています。これらは医療崩壊の主要な原因であり、労働基準法が守られていないことから引き起こされています。また、先進国では医療の安全性の観点から、医師の労働時間を規制する動きが強まっています。これらの労働問題の解決と安全性の視点が必要です。

?医療技術の進歩と高齢化の進行に対応する視点

医師の必要数が増加する最大の要因は、医療技術の進歩です。これまで、不可能であった検査や治療法が次々に開発され、それに関する専門的な知識や技術を持った医師が新たに必要となったり、一般的な医療水準が高度となりマンパワーを増やすことが必要となります。また、高齢化の進行は国民の有病率を高め医療機関を受診する患者の数を増やします。これは、避けることのできない現実です。このことを前提に国民の医療要求に即して中長期的な医師数を算出する必要があります。

?医療の産業としての発展を促進する視点

日本の医学・医療は衰退の危機にあります。医療費の抑制と医師のマンパワー不足で、大学をはじめとする医学研究は後退を余儀なくされ、医学に関する日本の研究論文は減る一方です。

80年代から、日本では医療費や福祉にお金をかけることを無駄と考える風潮が根強くあります。しかし、福祉国家と呼ばれる国では、医療や福祉は経済効果の高い重要な国内産業となっており、決して財政的視点から否定的に捉えるべき分野ではありません。医療に関連する分野でも、日本の高い技術力やもの作りの力が生かされる可能性を秘めています。

日本の医学・医療のレベルを高める視点、医療を経済効果の高い産業として育成する視点が必要です。

文部科学省は、将来的な医師養成数を決めるにあたり、医師不足に対応する専門家会議を設置することを表明しています。私たちは、上記の視点を積極的に取り入れ、医療の再生が展望できる結論が出されることを期待するものです。


2010年7月20日、中原利郎氏損害賠償訴訟に関する声明を発表しました

中原利郎氏損害賠償訴訟(小児科医過労死事件)に関する声明

2010年7月20日
全国医師ユニオン運営委員会

去る7月8日に、中原利郎氏損害賠償訴訟の和解が最高裁で成立しました。中原氏が亡くなられて11年、私たち全国医師ユニオンは、あ らためて中原氏の御冥福をお祈りするとともに、原告である中原のり子さんの闘いに心から敬意を表します。

中原氏の裁判は、医師の過労死裁判の中でも極めて重要な裁判でした。それは、労災認定に止まらず雇用する病院側の安全配慮義務ないし 注意義務違反を問うたこと。さらに裁判訴訟において、支援する会が結成され大きな運動が起き、医師の過重労働の問題を社会に知らせ警鐘を鳴らしたことにあると考えます。
今日でこそ、医療崩壊により医師不足の問題が大きく取り上げられ、医師を増やす政策がとられようとしていますが、当時に あってはそのような社会的な動きは皆無であり、孤軍奮闘の中で厳しい闘いを粘り強く続けてこられたことは想像に難くありません。
今回、最高裁の和解条項には「裁判所は、我が国におけるより良い医療を実現するとの観点から、当事者双方に和解による解決を勧告し た」と述べられています。一審・二審の原告敗訴からみれば、これは明らかな前進であり、その背景には医療崩壊が大きな社会問題となり 医師の過重労働が社会的に認められてきたことがあると考えられます。昨年、鳥取大学大学院生の過労死裁判の判決が出されましたが、診 療に従事する大学院生が労働者であるかどうかを問わずに大学に対し一定の安全配慮義務違反があったことを認定しています。
今日の医師不足と医療崩壊は、個々の医療機関の責任ではありませんが、使用者である医療機関には、労働者である勤務医の労 働実態を把握し健康状態に留意する義務があります。

今回の、最高裁での和解を今後の「我が国におけるより良い医療を実現する」ために役立てるには、医師労働の現状をあらためて正しく認 識する必要があります。2006年の国立保健医療科学院政策科学部の調査では常勤医師の平均勤務時間は週63.3時間で、月の時間外 労働が99.7時間となり月80時間のいわゆる「過労死ライン」を超えています。医療の需要を増やす医学・医療の進歩と高 齢化は確実に進みますが、医師養成には10数年を要するため、当面の医師不足はさらに深刻になることは明らかです。
それにもかかわらず、最近のアンケート調査をみても、医師の勤務状態を完全に把握している医療機関は2割程度で、タイムカードを使用 している医療機関は3割程度に過ぎないとの結果が出ています。これでは医療機関が医師に対する安全配慮義務を守ることはできませ ん。

私たち全国医師ユニオンは、今年5月に厚生労働省に医師労働に関し14項目にわたる要請を行ないました。私たちの調査では、全 国の主要な医療機関で労働基準法違反や過労死基準を超える労働協定が多数認められるため、全国の医療機関における勤務医の労働に関す る情報公開を求めましたが、受け入れられませんでした。厚生労働省は、今回の最高裁における和解の意図を真摯に受け止めること。ま た、医師労働に関する実態の情報公開を行なうこと、さらに医療機関が医師の労働実態を適切に把握するよう指導を徹底するこ とを強く希望します。

本年4月より労働基準法が改正されました。これは長時間労働を抑制し、労働者の健康確保や仕事と生活の調和を図ること(ワークライ フ・バランス)を目的としています。各医療機関に対しては、過労死を防ぐことはもとより医師の健康確保と医療安全のために、勤 務医の労働実態を適切に把握し、地域住民の協力も得ながら、医師が健康でやり甲斐をもって働ける適切な診療環境を作ることを強く希望 します。

今回の診療報酬改定は、勤務医の負担軽減が一つの柱になっています。しかし、大多数の医療機関では勤務医の労働条件は改善されていま せん。勤務医が自ら声を上げることが必要です。私たちは、全国の勤務医に対して自らが自分の勤務時間を記録する運動を呼びか けます。また、不払労働の解消と診療環境の改善の要求を行なうことを呼びかけます。

最後に、全国医師ユニオンは中原先生の死を無駄にせず、国民の医療そして勤務医の健康と命を守るために、あらためて奮闘していく決意 です。


2010年5月17日、全国医師ユニオン及び全医連が、厚労省交渉を行いました。

勤務医に対する労働基準法違反の処遇に関する厚生労働省への要望書

2010年5月17日

全国医師連盟
全国医師ユニオン

現在、日本の医療は医師不足および医師の過重労働により崩壊の危機にあります。私たち全国医師連盟と全国医師ユニオンは、昨年、全国の主要病院における医師職に関する36協定の締結状況の調査を行いましたが、勤務医の労働環境に関しては、全国的な規模で労働基準法違反の実態が存在することが明らかになりました。

現政権は、日本の医師数をOECD諸国並みに増員することを掲げ、取り組みをはじめていますが、医師養成には長期の時間を要するために、当面医師不足が解決されることはありません。

この現状において、勤務医が健康でやりがいを持って働ける環境を作るには、医師といえども勤務労働者の一員であることを銘記し、これまで勤務医の労働環境において軽視されてきた労働基準法が遵守されるようにすることが重要であると考えます。2010年4月1日施行の改正労働基準法は、長時間労働を抑制して、労働者の健康を増進するとともに、ワーク=ライフ・バランスを図ることを目的としています。ところが、勤務医に関してはワーク=ライフ・バランスどころか、多くの医療機関において、いまだに労働基準法そのものが無視されているという事実を深刻に受け止め、一刻も早く是正する必要があります。

今回の中央社会保険医療協議会(中医協)の議論では勤務医の過重労働が問題となり、医師の勤務実態を把握すること、また医師の勤務の負担を軽減するための方策を策定し提出することが、答申に盛り込まれています。そして高度医療や救急医療を担う基幹病院に勤務する医師らの負担を軽減するために、そうした病院に対しては診療報酬の重点配分が行われています。これらを一定の前進と評価し、今回の中医協方針を生かすことも必要であると考えます。しかし本来は、基本的な人権である生存権を脅かすような現在の医師の過重労働状況は人権侵害というべきであり、保険点数によって労働環境改善を誘導するまでもなく、当然に改められるべきです。

また、医療関係者をはじめ地域住民にも医師労働の現状を正しく知ってもらうことが重要であると考えます。現状では国民は、全国の医療機関の医師労働にどのような問題があり、どのような改善指導が行われているのか知ることさえできません。地域の拠点となる医療機関における労働基準法違反は、当該医療機関の問題にとどまらずに、周辺の中小の病院や診療所における勤務医の労働環境にも影響を与え、ひいてはその地域の医療全般のあり方にも大きな関わりを持つことになります。従って住民の協力を得るためにも情報の公開が求められています。

私たちは、厚生労働省が監督官庁として勤務医の労働条件の改善を進めるために当面以下の項目を実施することを要望します。
1)全国の公的医療機関における医師職に関する36協定の締結状況および内容を公表すること。

2)1カ月80時間以上の時間外労働を定めている医療機関への改善の指導を行うこと。(1カ月80時間以上の時間外労働は過労死との関連が強い(過労死ライン)と言われているため)

3)これまで、労働基準監督署から是正勧告が行われ、勧告に従った改善処置がなされた公的医療機関名と、その内容を公表すること。また、現在是正勧告が行われている公的医療機関名を公表すること。さらに、民間の医療機関も含めた実数を公表すること。

4)救急告示病院等における夜間・休日にも医師の常態的な労働を前提とする業務は「当直」と呼ばれていても、労働基準法上は「宿直」ではなく時間外労働に該当すること、およびその場合の時間外賃金の計算方法を周知徹底させること。

5)労働規準法上の「管理監督者」に該当しない、いわゆる「名ばかり管理職」に対しては、時間外手当てを支払う必要があることを周知徹底させること。

6)勤務医の労働実態把握の徹底と改善計画の策定・実施を指導し、中医協方針実施の促進をはかること。

7)200床以上の医療機関においては、労働問題の専門家である社会保険労務士や弁護士に医師労働の実態把握と改善策に関する法的な助言を受けることを義務づけること。
(病院経営者の多くは、労働関係法規への理解が乏しく、現状では法令の遵守が困難であるため)

8)過労死ラインを超えて長時間労働を行う医師への面接など、労働安全衛生法に基づく産業医の役割の徹底を指導すること。

9)医師に対し拘束性のある待機を命じる待機時間(オンコール)について、これを労働時間として認め、賃金計算の根拠に含めるものとする通達を出すこと。(EUでは、自宅待機に関しても労働時間と認められており、国内でも「労働時間と判断される場合がある」との指導例がある)

10)36協定の自動的な延長を実質的に定めている協定を結んでいる医療機関へ指導を行うこと。(36協定は労働実態に基づき年1回、労使の話し合いの上で締結することが原則であるため)

11)雇用契約を結ばずに、大学院生を診療に従事させることを禁止すること。すでに診療に従事している場合は、即時雇用契約を結ぶよう指導すること。

12)厚生労働省内に「勤務医の労働環境の改善及び労働基準法の遵守に関する検討会」を設置すること。また検討会の医師メンバーは勤務医を中心とすること。(別紙参照)

13)医政局関連の検討会などにおいて、労働基準法に抵触する見解が出されることのないよう、医療行政において労働関係法制との整合性を保つこと。(これまでは医師および医療機関に対し、労働基準法違反の活動を求める見解が散見されたため)

14)厚生労働省における労働関係部門の強化及び労働基準監督署の体制を強化し、各医療機関に対して労働基準法違反の是正指導を徹底すること。特に2010年4月1日施行の改正労働基準法が医療機関において遵守されるよう特別の指導体制をとること。
補足資料

「勤務医の労働環境の改善及び労働基準法の遵守に関する検討会」の目的と体制についての提案

1)目的と検討内容
?医師労働において、労働基準法の遵守を進めるための方策の検討を行う。

?地域や医療機関の規模、また各診療科の勤務医の労働実態の把握と指導の在り方の検討を行う。

?この間、是正勧告を行った医療機関の改善の取り組み内容及びその効果を把握する。

?医師労働改善の先進的で有効な取り組みの把握及び研究を行い、これを情報発信する。

?先進7ヶ国(G7)における医師の労働条件や勤務形態の調査・研究を行う。

?厚生労働省における医療政策が労働基準法の遵守を前提としたものとなり、その政策の実施が円滑に行われるよう問題点の抽出とその解決策の提案を行う。

なお、この検討会においては、勤務医の労働環境と労働基準法との関係に関する議論を中心に行うこととする。医師労働を軽減するための方策として、医療クラークやナースプラクティショナーのような補助職が代替する等の様々な取り組みが考えられているが、本検討会はこれらに関する検討を行うものではない。ただし、先進的な取り組み例などの把握や情報発信は行なうものとする。

2)体制に関して
委員は、厚生労働省の関係部門、医師、労働法の専門家(弁護士、社会保険労務士、研究者)、医療制度や医療経済の専門家等により構成する。
なお、医師の委員に関しては、勤務医を中心としこれに経営知識の豊富な病院管理者を加えるものとする。


2009年11月22日  全国医師ユニオン声明

「医療機関における全国的な労働基準法違反および勤務医への賃金不払いに抗議する」

2009年11月22日

全国医師ユニオン

全国医師連盟および全国医師ユニオンが36協定の全国調査を行った結果、全国の公的な医療機関の多くに労働基準法違反があることが判明した。

今回の調査結果は、勤務医の労働問題に関する厚労省行政の無作為が医師数抑制政策を安易に実行させ、勤務医の過重労働を促進し、多くの勤務医を疲弊させ医療崩壊を引き起こした事実を労働の面から裏付けるものである。
これらの違法は法治国家において許されることではない。また、病院管理者はもとより監督官庁の法律遵守に対する意識の欠落を指摘せざるを得ない。

今回の調査は、36協定という書類上の調査にすぎないが、実態労働ではさらに多くの労基法の違反があると推測される。法律に基づいた一刻も早い勤務医の労働条件の改善が求められる。

一方、36協定において1ヶ月80時間の過労死ラインを超える時間外労働を認める協定が多くみられる。絶対的な医師不足の中で、地域医療を守るためには一定の長時間労働を勤務医が担わざる得ない現状があることは事実であるが、そのことを理由に漫然と長時間労働を認めることは許されない。勤務医の労働時間を減らす様々な取り組みを行うと同時に、医師の健康悪化と医療事故を誘発する危険性の高い、長時間の連続労働を防止する対策を取る必要がある。

さらに、いわゆる救急医療などを含む当直業務を「ほとんど労働の必要がない」宿直扱いとして、または一定の当直料を支払うことで、労働基準法に定められた時間外割り増しや深夜割り増し賃金を払わないことにより、莫大な不払い賃金が発生していると考えられる。また、名ばかり管理職の残業未払いや業務による待機時間への不払いも横行している。

仮に勤務医の三分の一の医師6万人に当直や長時間残業で300万円の不払いがあるとすれば、1800億円となり、これに名ばかり管理職の時間外労働や待機時間に関する不払いが加われば年間2000億円規模の不払い賃金が存在することになる。正確な実態は不明であるが、これらの不払い賃金が、24時間の医療体制を担い長時間労働を行う勤務医の地位を著しく低下させ、これらの勤務医のやる気をなくさせている要因の一つであることは明らかである。

私たち全国医師ユニオンは、長時間労働や深夜労働を行う医師を高く評価し、労基法に基づいた当然の賃金を払わせることを強く求める。これら労働法遵守は勤務医のやる気を高め医療崩壊を防ぐうえで必要不可欠な最低限の政策である。

ただし、これに対応した診療報酬が払われなければ多くの医療機関が倒産し、医療崩壊がさらに進むという構造となっている。多くの勤務医は不払い労働に不満を持ちながらも、病院経営を気遣い声を上げることができずにいた。私たちは、正当な報酬が勤務医に支払われるように勤務医の労基法遵守加算のような診療報酬制度の必要性を強く訴える。

また最近、開業医と勤務医を対立させるような議論が行われているが、勤務医の賃金が適切に払われることが重要であり、現在の医療費の中で開業医と勤務医がパイの取り合いをするような構図を作ることには、極めて有害な議論である。

高齢化の進行と医学の発展は、医師のマンパワーをさらに必要とするが、かなりの期間にわたって深刻な医師不足が改善される見込みはなく、当面はさらに悪化することは明らかである。開業医がやる気をなくせば、勤務医の負担は更に増えることは自明の理であり、勤務医と開業医のどちらにも働くインセンティブを与える必要がある。

低医療費政策と絶対的医師不足のもとで必要なことは、これまで医療政策を転換し医療崩壊を防ぐために、医師が健康でやり甲斐を持って働ける環境を整備することである。

私たち全国医師ユニオンは、政府・与党及び厚労省に対して勤務医の労働条件の速やかな改善を行うことを強く要請する。

下記連絡先までお問い合わせ下さい TEL 03-5825-6138 info@union.or.jp

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