厚労省から「新型コロナ感染の労災補償における取扱について」(厚労省4.28通達)がだされました。

画期的な内容であり、おおいに医療機関で活用してほしいと思います。

また、5/15に開催したシンポジウムにて労働弁護団よりQ&Aが紹介されましたので、その資料をご紹介します。

⑩新型コロナ労災QA ver-1 2020.5.15

医療従事者のための新型コロナウイルス(COVID-19)感染に関する労災Q&A(ver.1)

 

2020.5.15

全国医師ユニオン

日本労働弁護団有志

 

1. 労災保険制度について

Q-1 労働者の負傷、疾病、障害または死亡について、労災と認められた場合、どのような補償を受けることができるでしょうか。

A 労災保険制度には、主として①療養補償、②休業補償などがあります。亡くなった場合には、遺族補償と葬祭料が給付されます。

【解説】

⑴ 療養補償給付について

負傷、疾病が労災と認められた場合、治療中は療養補償が給付されます。当該負傷、疾病に関する診察、薬剤・治療材料の支給、処置・手術、病院への入院・看護などの療養について給付を受けることができます。

具体的には、①療養した医療機関が労災保険指定医療機関の場合には、「療養補償給付たる療養の給付請求書」をその医療機関に提出してください。療養費を支払う必要はありません。

②療養した医療機関が労災保険指定医療機関でない場合には、一旦療養費を立て替えて支払うことになります。その後「療養補償給付たる療養の費用請求書」を、直接、労働基準監督署長に提出すると、その費用が支払われます。

⑵ 休業補償給付について

負傷、疾病が労災と認められた場合、その療養のために労働することができず賃金の支払いを受けない場合、休業4日目から休業補償が給付されます。1日あたり給付基礎日額(平均賃金)の100分の60が支給されます。また、併せて休業特別支給金として、給付基礎日額(平均賃金)の100分の20が支給されるので、合計で給付基礎日額(平均賃金)の100分の80に相当する給付がなされることになります。

③ 遺族補償給付について(死亡された場合)

死亡が労災と認められた場合、遺族補償と葬祭料が給付されます。遺族補償は、遺族補償年金として給付されるのが原則ですが、例外的に遺族補償一時金として給付される場合もあります。遺族補償年金は、労働者の死亡当時その収入によって生計を維持している配偶者、子、父母、祖父母、兄弟姉妹に受給資格が認められています(妻以外の遺族については年齢等による制限があります)。全員がそれぞれ受給できるのではなく、このうち最先順位の者に受給権が認められています(順位は上記した順によります)。遺族補償年金の額は、受給権者および受給権者と生計を同じくしている受給資格者の人数に応じて決まります。

④ その他の給付について

労災と認められた負傷、疾病が「治癒」したと認定された場合、療養補償と休業補償は打ち切られます。この段階で、身体に一定の障害があるときは、その障害の程度に応じて障害補償が給付されます。

また、負傷、疾病が療養開始後1年6か月を経過しても「治癒」せず、1年6か月を経過した日においてその負傷、疾病による障害の程度が1級~3級の程度に達している場合、その状態が継続している間、傷害補償年金が給付されます。

 

2. 感染したときの労災補償請求の手続き

Q-2-1  COVID-19の治療にあたっていましたが、自分も感染してしまいました。労災にあたると思うのですが、どのような手続きをすれば良いのでしょうか。

 請求書を手に入れ、医師の証明などを得て、労基署等に提出しましょう。

【解説】

まずは、労災の請求書を入手しましょう。労働基準監督署で手に入れることができますし、厚生労働省のホームページでダウンロードすることもできます。

請求書には、事業主と医師の証明欄がありますが、被災者から証明を求められた事業主には証明をする義務があります。もっとも事業主の協力が得られないことも良くありますが、この場合でも証明のないまま申請することができます(労基署長は職権で調査することになります)。

上述したとおり、療養補償給付のうち、療養した医療機関が労災保険指定医療機関の場合には、「療養補償給付たる療養の給付請求書」をその医療機関に提出してください。その他の給付については、全て、被災労働者の所属する事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に提出してください。

請求できるのは、被災労働者です(死亡している場合はその遺族です)。弁護士を代理人として請求することもできますのでご相談ください。

 

3. 労災認定について

Q-3-1 厚生労働省から「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」(基補発0428第1号令和2年4月28日)(以下「4.28通達」)というものが発出されたと聞いています。その内容を教えてください。

 具体的な感染経路が特定されなくても、「患者の診療」に従事する医師など医療従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、原則として労災保険給付の対象になるとされました(この患者は新型コロナウイルスに感染した患者に限定されません)。

【解説】

⑴ 労基法施行規則別表第1の2・第6号

労災と認められるためには、その負傷、疾病、傷害又は死亡が「業務上」のものであると認められなければなりません。この「業務上」は業務起因性とも呼ばれることがあります。「業務上の疾病」について、労基法施行規則は別表第1の2において、医学的に業務に起因して発生する可能性が高い疾病を有害因子と業務の種類ごとに類型的に列挙しています。

別表第1の2・第6号には「細菌、ウイルス等の病原体による次に掲げる疾病」として、「1 患者の診療若しくは看護の業務、介護の業務又は研究その他の目的で病原体を取り扱う業務による伝染性疾患」や「5 1から4までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他細菌、ウイルス等の病原体にさらされる業務に起因することの明らかな疾病」が定められています。

この第6号の「1」が医療従事者等に該当し、「5」が医療従事者や介護、研究職以外の一般の労働者で、「細菌、ウイルス等の病原体にさらされる業務」に従事する者になります。

⑵ 4.28通達

そして、4.28通達は、新型コロナウイルス感染症が、「当分の間、別表第6号5(5 1から4までに掲げるもののほか、これらの疾病に付随する疾病その他細菌、ウイルス等の病原体にさらされる業務に起因することの明らかな疾病)の運用については、調査により感染経路が特定されなくとも、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められる場合には、これに該当するものとして、労災保険給付の対象とする」としています。具体的な取扱いは、以下のとおりです(4.28通達は「国外の場合」についても触れていますが、ここでは「国内の場合」に限定して解説します)。

ア 医療従事者等(上記別表第1の2・第6号「1 患者の診療若しくは看護の業務、介護の業務又は研究その他の目的で病原体を取り扱う業務による伝染性疾患」)

国内の医療従事者については、「患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となる」とされています。これによって、具体的な感染経路を特定できなくても、「患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事」している医療従事者等は、原則として労災保険給付の対象となることになります。

ここで重要なのは、この「患者の診療」における「患者」とは、新型コロナウイルスに感染した(又は感染の疑いのある)患者に限定されないことです。同じく、「看護の業務」、「介護の業務」についても新型コロナウイルスに感染した者の「看護」や「介護」に限定されません。新型コロナウイルスは、「症状がなくとも感染を拡大させるリスク」があるため、そもそも「感染の疑いのある患者」を特定することはできないためです。

また、「患者の診療」をする「医師」は、感染症科や内科等の医師に限定されるものではなく、全ての診療科の医師も含まれ、歯科医師も含まれます。新型コロナウィルスに感染した疑いのある患者を診察する可能性があり、また患者と近接して診療行為を行うため、当然に対象になるのです。「患者の介護の業務」に従事する看護師も同様の解釈になります。

さらに、「介護の業務」は、病院や診療所におけるものに限定されるのではなく、高齢者施設、障害者施設における「介護の業務」も含まれます。

当然ですが、高齢者施設、障害者施設における「患者の診療若しくは看護の業務」も同様です。

イ 医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定されたもの

アの医療従事者等以外の労働者であっても、感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合には、労災保険の対象となります。

ウ 医療従事者等以外の労働者であって上記イ以外のもの

調査によって感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる、下記(ア)(イ)のような労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して判断することとされています。なお、(ア)(イ)は「感染リスクが相対的に高いと考えられる労働環境下での業務」の例示であって、これに限られるものではありません。

(ア)複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務

この「複数」とは、労災申請をする者を含めて2人以上ということである。典型例としては、自分が就労する事業所、事務所、店舗、工場などの職場で自分を含めて2人以上の感染者が確認されたような職場で働いていた場合です。

(イ)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務

例えば、スーパーマーケットやデパートなど比較的規模の大きい小売店だけでなく、中規模・小規模のあらゆる小売店や飲食店等で働く労働者も対象となります。また、直接顧客と相対して物やサービスの売買をする販売業務に従事する労働者も該当します。その他にも、バス・タクシー等の運送業務、育児サービス業務等が想定されます。

 

Q-3-2 私は、COVID-19患者の診療を行っています。私が、COVID-19に感染した場合、労災になるでしょうか。

 原則として労災になります。

【解説】

上記4.28通達のとおり、「患者の診療」を行っている全ての医師が新型コロナウイルスに感染した場合、業務外の私生活や私的な旅行先等で感染したことが明らかな場合を除き、原則として労災保険給付の対象となります。この「患者」は、新型コロナウイルスに感染した(又は感染の疑いのある)患者に限定されませんが、新型コロナウイルス患者の診療を行っていればその感染経路はより明確になります。

 

Q-3-3 私の病院はCOVID-19の確定診断を受けた患者の診療を行っていますが、私は直接その診療を行っているわけではありません。この場合、COVID-19に感染しても労災にならないのでしょうか?

 「患者の診療」を行っていれば、原則として労災が認められます。

【解説】

上記4.28通達は、「患者の診療」を行っている医師が新型コロナウイルスに感染した場合、原則として労災保険給付の対象とされるとしています。そして、この「患者」は、新型コロナウイルスに感染した(又は感染の疑いのある)患者に限定されませんので、新型コロナウイルスに感染したことが明らかな患者を診療していなくても、「患者の診療」をしていれば、原則として労災保険給付の対象となります。

 

Q-3-4 私の病院はCOVID-19の確定診断を受けた患者の治療を行っていますが、私は直接その治療を行っているわけではありません。病院では院内感染で数人のスタッフがCOVID-19に感染して労災を認められている人もいますが、私の場合は感染経路が不明確であることを理由に、労災が認められませんでした。納得がいかないのですがどうすればよいのでしょうか。

 労働局に対し審査請求をしましょう。

【解説】

労基署長からの労災不支給決定に対しては、各都道府県労働局内の労働者災害補償保険審査官に対し審査請求をすることができます。さらにまた、その審査官の決定に不服があれば、厚生労働省本省内の労働保険審査会に対し再審査請求をすることもできます。

なお、労基署長の決定に不服があれば、労災保険審査官への審査請求手続を経れば、労災保険審査会への再審査請求を行わなくても、取消の訴えを裁判所に提起することができます。また、労災保険審査官が審査請求後3か月を経ても決定をしないときは、審査請求を棄却したものとみなすことができます(取消の訴えを提起することができます)。

Q-3-1~3で説明したとおり、COVID-19の確定診断を受けた患者の診療を行っていなくても、「患者の診療」をしていれば、原則として労災保険給付の対象となります。にもかかわらず、労災が認められないのは明らかに不当です。審査請求を行いましょう。

 

Q-3-5 私は歯科医師で、COVID-19の治療は行っていません。しかし、口を開けたままの歯の治療は唾液が飛び散ったりするので、もし患者がCOVID-19に感染していた場合(本人が感染に気付いていないケースもあると思います)は、私が感染する可能性は極めて高いと考えます。

 歯科医師であっても、患者の診療を行ったのであれば原則として労災が認められます。

【解説】

上記4.28通達は、「患者の診療」を行っている医師が新型コロナウイルスに感染した場合、原則として労災保険給付の対象とされるとしています。この「患者」は新型コロナウイルスに感染した(又は感染の疑いのある)患者に限定されませんし、「医師」には歯科医師も含まれます。ですので、歯科医師として患者の歯の治療等の診療を行い、新型コロナウイルスに感染した場合、原則として、労災保険給付の対象となります。

 

4. 大学院生などの無給医の労災について

Q-4-1 私は、大学病院で診療を行いCOVID-19の治療にあたっていますが、いわゆる無給医で大学との間に契約書もありません。私がCOVID-19に感染した場合、労災を受けることができるのでしょうか。

 いわゆる無給医であっても病院等での診療に従事していれば、原則として労災保険の対象となります。

【解説】

労災保険は、「労働者」を対象とするものです。そして、その「労働者」については、労働基準法上の「労働者」と同様と解釈されています。労働基準法2条1項は、労働者を「使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者」と定義されています。この点、大学病院で臨床研修を受けている研修医の労働者性が問題となった事案において、最高裁は「研修医がこのようにして医療行為等に従事する場合には,これらの行為等は病院の開設者のための労務の遂行という側面を不可避的に有することとなるのであり,病院の開設者の指揮監督の下にこれを行ったと評価することができる限り,上記研修医は労働基準法9条所定の労働者に当たる」と判断しました(関西医科大学研修医事件・最判平成17.6.3民集59巻5号938頁)。

ですので、あなたが大学病院において、診療等の医療行為に従事している限り、「労働者」と解され、労災保険の対象となります。文部科学省高等教育局医学教育課長が、各国公私立大学病院長宛に出した事務連絡(令和2年4月22日付け)「新型コロナウイルス感染症の診療に従事する大学院生等の適正な雇用・労務管理について」でも、「大学院生等が診療等に従事している場合には、雇用契約を締結し賃金を支払うなど適切に雇用・労務管理を行い、合理的な理由なく給与が支給されない事案が生じないようご留意願います。」としています。

なお、大学病院から何らかの金員が不十分でも支払われていれば以上のように解されますが、全く金員が支給されていないような場合は「賃金を支払われる者」と言えるかについて検討が必要です。必ず、弁護士に相談してください。

 

Q-4-2 私はいわゆる無給医で、大学病院からは月に4万円の手当しかもらっていません。大学病院でCOVID-19患者の診療を行って感染した場合の労災補償の休業補償給付は4万円が基礎となるのでしょうか。

 休業補償給付の算定にあたっては、少なくとも最低賃金にひきなおされます。また、賃金規程が適用されないかも検討すべきです。

【解説】

Q1で解説したとおり、休業補償は、1日について給付基礎日額の100分の80が支給されます(休業(補償)給付=60%+休業特別支給金=20%。労災保法14条、労働者災害補償保険特別支給金支給規則3条)。そして、この給付基礎日額は、労働基準法12条の平均賃金に相当する額とされています(労災保法8条)。具体的には、疾病の発生が確定した日以前3か月間に「その労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」を言います(労働基準法12条、労災保法8条)。例えば、疾病発生前3ヶ月間に90万円(ここには残業代や通勤手当も含まれます)支払われ、当該賃金計算期間が90日間だった場合、給付基礎日額は1万円となります(よって、休業補償としては1日あたり8000円が支払われます)。

このとき、「その労働者に対し支払われた賃金の総額」は強行法規に反したものであってはなりません。ですので、最低賃金を下回る賃金しか実際には支払われていない場合でも、最低賃金が「その労働者に対し支払われた賃金」となります。Q-4-1で説明したとおり、いわゆる「無給医」も労働者と認められますので、最低賃金法の適用対象と考えられます。そして、月4万円の支給は最低賃金に達していませんので、最低賃金にひきなおして計算されなければなりません。また、もしあなたが1日8時間以上あるいは週40時間以上働いていて、法律上残業代を請求できる場合(労基法37条1項)には、支払われるべき残業代も含めて「その労働者に対し支払われた賃金」を計算することになります。

さらに、大学病院の賃金規程などで医師に対する賃金額が具体的に決められている場合、無給医についてもその賃金規程が適用されると解釈される余地はあります(その場合の給付基礎日額はその賃金規程に基づいて計算されるべきことになります)。いずれにしても、必ず弁護士に相談してください。

 

Q-4-3 私はいわゆる無給医です。そのため他の病院でのアルバイトで月に20万円程度の賃金を得ています。大学病院(A病院)でCOVID-19患者の診療を行って感染した場合の休業補償給付はどうなるのでしょうか。他の病院(B病院)での賃金も休業補償給付の基礎となるのでしょうか。

 現時点では感染先でない病院の賃金は休業補償給付の基礎にはなりませんが、弁護士にご相談ください。

【解説】

Q-4-2で解説したとおり、休業補償給付の基礎となる給付基礎日額は、疾病の発生が確定した日以前3か月間に「その労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」を言います。この点、AとBという複数の事業場で就労している労働者について、A事業場の業務に起因して負傷又は疾病に罹患した場合、すなわちA病院で感染したという感染経路が特定された場合の休業補償給付が問題となります。現行制度では、A事業場の使用者から支払われていた賃金を基本に算定する給付基礎日額により給付額が決定されています(B事業場の使用者から支払われる賃金は含まれません)。

これに対し、A病院かB病院かどちらの患者の診療行為で感染したのか感染経路を特定できない場合には、Q-3でもご説明したとおり、4.28通達により「患者の診療」をした医師が新型コロナウイルスに感染した場合、原則として労災保険給付の対象となり、その「患者」は新型コロナウイルスに感染した患者に限定されません。アルバイト先のB病院において、「患者の診療」をしていたのであれば、B病院を事業場として労災保険給付が認められる余地もあるかもしれません。

しかし、大学病院(A病院)において新型コロナウイルスに感染した患者の診療を行っていて、感染経路が大学病院(A病院)と特定される場合であれば、大学病院(A病院)での賃金で算定する給付基礎日額により給付額が決定され、アルバイト先の病院(B病院)からの賃金は含まれないことになります。

もっとも、そのような現行法の取り使いは兼業・副業労働者の保護として不十分なものだといえます。そこで、2020年3月、労災保険法が改正され、複数事業労働者の業務上の事由による負傷、疾病等により保険給付を行う場合、「当該複数事業労働者を使用する事業ごとに算定した給付基礎日額に相当する額を合算した額を基礎として、厚生労働省令で定めるところによって政府が算定する額を給付基礎日額とするものとすること」とされました(同法8条3号)。この改正によって、Qのようなケースでもアルバイト先の病院の賃金で算定する給付基礎日額も合算されることになります。ただし、この改正の施行は、「公布後6月を超えない範囲で政令で定める日」とされていますが、未だその施行日は決まっていません。国は改正労災保険法を一日も早く施行するべきです。

いずれにしても、必ず弁護士にご相談ください。

 

Q-4-4 上記の無給医の場合の遺族補償給付について教えてください。もし無給医が労災で亡くなった場合、家族が受け取る遺族補償給付の額はどうなるのでしょうか。

 給付基礎日額を基礎に決まります。

【解説】

遺族補償年金の額(年額)は、給付基礎日額を基礎に、その受給権者及びその者と生計を同じくしている受給権者となりうる者(受給資格者)の人数に応じて決まります。その人数が1人であれば給付基礎日額の153日分、2人であれば201日分、3人であれば223日分、4人以上であれば245日分とされています。いずれにしても、基礎となる給付基礎日額の考えは、Q-4-2、Q-4-3と同じように考えられます。

 

5. 家族等が感染した場合の保障について

Q-5-1  COVID-19の治療に当たり自分が感染した後に配偶者も感染しました。配偶者は入院し、仕事も長期間休むことになりました。この場合、配偶者の入院費や仕事を休んだことでの収入減に対する補償はあるのでしょうか?

 配偶者の方の入院費や収入源については、あなたの労災保険の支給対象とはなりません。配偶者の方の健康保険に基づいて傷病手当などを受給することはできます。

【解説】

労災保険における療養補償給付や休業補償給付は、当該労働者のみを対象としています。仮に、家族に感染した場合でも、その家族の療養費や賃金は補償されません。ご家族については、ご自身の健康保険に基づいて入院費を支払い、会社を休んだ場合には傷病手当金を請求することが考えられます。

もっとも、病院に対し、配偶者の入院費や賃金を補償するように交渉することは考えられます。例えば、あなたが勤務する病院の新型コロナウイルスの感染予防対策が杜撰で感染してしまったような場合は、病院の過失(感染予防のための注意義務違反)があるといえる可能性があるので、交渉の余地はあると思われます。

 

Q-5-2 COVID-19の治療に当たり自分も感染しました。配偶者や子供が濃厚接触者として会社から14日間の自宅待機を命じられました。配偶者や子供のこの間の賃金はどうなるのでしょうか。

A 配偶者と子供は、それぞれが勤務する会社に対し、賃金の全額を補償するように求めましょう。

【解説】

新型コロナは指定感染症に定められていますが、単に感染が疑われているだけの場合には、労働者に就業制限は課せられません。また、一緒に暮らす家族に感染者が出たとしても、労働者自身が感染したわけではない場合も同様です。

そのため、会社が感染疑いや家族の感染を理由として、業務命令として一方的に自宅待機を命じる場合には、使用者の責めに帰すべき事由により労働者が就労できなくなるわけですから、基本的には、給料の全額が補償されます(民法536条2項)。

もっとも、現在、新型コロナウイルス感染症が蔓延する可能性について報道されていることに鑑み、また、同僚にうつさないようにするためにも、感染が疑われる場合には、無理をせず、自主的に自宅待機をするようにしましょう。この場合には、給料の補償について会社とよく話し合い、支払ってもらうよう交渉しましょう。会社の就業規則等に有給の病気休暇制度等があれば利用するか、そういう制度がなくても年次有給休暇を利用することもできます(ただし、有給休暇を利用することを使用者の側から強制することはできません)。また、病気で4日以上休業した場合には、健康保険組合の傷病手当金の請求もできます。なお、もし会社から病院での検査を受けるよう指示を受けた場合には、病院に行って検査をしてもらって下さい。

 

6. 病院の責任について

Q-6-1  私の病院では、COVID-19患者の診療等をしています。しかし、病院は、マスク(N-95やサージカルマスク)をはじめとする防護具が足りず、マスクの使い回しや、手製の防護具を使った不十分な体制で診療を行っています。感染した場合は病院側の責任を問えるのでしょうか?

 病院には安全配慮義務違反が認められる余地があります。

【解説】

使用者である病院は、労働者である医療従事者に対し、安全配慮義務があります(労働契約法5条)。新型コロナウイルスについては、その感染力が強いことが知られており、感染者の治療や感染を疑われる者の検査にあたる医療従事者は、その感染の危険は高くなります。安全配慮義務の具体的内容は、労働者の従事する労務に応じて求められるものですが、新型コロナウイルスの対応にあたる医療従事者に対する安全配慮義務は、その強い感染力から医療従事者を守るための最大限のものが求められると解されます。

Qのような不十分な体制で、COVID-19患者の診療をさせていれば、それは医療従事者に対する安全配慮義務を怠ったものと解されます。使用者である病院に対し、まずは安全配慮義務の履行(最大限の感染防止策)を求め、仮に感染してしまった場合には、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を検討すべきです。具体的には、労災保険の休業補償給付でカバーされない休業損害や慰謝料などを請求することになります。弁護士にご相談ください。

 

7. 自宅待機に関して

 熱が出た場合(検査を受けてないのでCOVID-19の感染かどうかは不明です)は休むようにと勤務先の病院から言われています。この場合の賃金の補償などは受けられるのでしょうか?

 勤務先である病院から自宅待機を求められた場合、基本的に賃金の全額の支払いを求めましょう。

【解説】

新型コロナは指定感染症に定められていますが、単に感染が疑われているだけの場合には、労働者に就業制限は課せられません。そのため、使用者である病院が感染疑いを理由として、業務命令として一方的に自宅待機を命じる場合には、使用者の責めに帰すべき事由により労働者が就労できなくなるわけですから、基本的には、給料の全額が補償されるべきです(民法536条2項)し、少なくとも、労基法で定められている休業手当(平均賃金の60%以上)の支払義務が存在します(労基法26条。罰則付き)。

もっとも、現在、新型コロナウイルス感染症が蔓延する可能性について報道されていることに鑑み、また、同僚や患者にうつさないようにするためにも、感染が疑われる場合には、無理をせず、自主的に自宅待機をするようにしましょう。この場合には、給料の補償について使用者である病院とよく話し合い、支払ってもらうよう交渉しましょう。病院の就業規則等に有給の病気休暇制度等があれば利用するか、そういう制度がなくても年次有給休暇を利用することもできます(ただし、有給休暇を利用することを使用者の側から強制することはできません)。また、病気で4日以上休業した場合には、健康保険組合の傷病手当金の請求もできます。

 

8. その他

Q-8-1 私は大学院生で、職員ではありませんが病院側から一方的にCOVID-19の診療にあたるように言われ、診療のシフトに組み込まれました。医師であれば大学院生であってもそのような指示命令に従わなければならないのでしょうか。

 労働者として働くことの合意がなければ、病院の業務指示に従う必要はありません。

【解説】

そもそも、働くことは、雇用契約(労働契約)、つまり労働者が働くことの対価として使用者が賃金を支払うことについての合意に基づいて行われるものであり、これは医師であっても同じです。したがって、大学院生であって病院と雇用契約を締結していないにもかかわらず、人手不足であるからといって病院側が強制的にシフトに組み込み診療行為を命ずることは許されません。大学院生にも診療に加わってもらおうというのであれば、病院はきちんと雇用契約を締結してはじめて指示命令を出すことが可能になります。

他方、大学院生であるにもかかわらず、事実上、無給医としてこれまでも就業してきた方もいらっしゃると思います。しかし、無給医とは病院が当該医師を労働者扱いしていないことを意味します。労働者でないのであれば、業務指示に従う義務はありません。病院がCOVID-19の診療にあたらせたいのであれば、無給医が労働者であるという現実を直視し、きちんと雇用契約を締結し、適法・適正な賃金を支払わなければなりません。

前述した、文部科学省高等教育局医学教育課長の各国公私立大学病院長宛の事務連絡(令和2年4月22日付け)「新型コロナウイルス感染症の診療に従事する大学院生等の適正な雇用・労務管理について」でも、「大学院生等が診療等に従事している場合には、雇用契約を締結し賃金を支払うなど適切に雇用・労務管理を行い、合理的な理由なく給与が支給されない事案が生じないようご留意願います。」としています。この事務連絡も根拠にして大学病院と交渉しましょう。

 

Q-8-2 国が緊急事態宣言を出しており、全国各地で医療機関の院内感染が起きています。COVID-19の患者の診療を行っているので、危険手当があって当然であると思いますが、誰にどのように要求すればよいのでしょうか。また、家族の安全のためにホテルに宿泊しているのですが、この宿泊費用についてはどうでしょうか。

 労働組合に加入するなどして病院に要求しましょう。また、国に対しても補償を求めていきましょう。

【解説】

現在、医療従事者は、その危険を冒して、COVID-19への対応に奔走しています。極めて危険な業務に従事していると言えます。危険な業務への従事に対しては、その安全配慮はもちろんのこと、十分な経済的なバックアップも必要です。医療従事者は、使用者である病院に対し、特別の危険手当の支給などを要求しましょう。その要求は個人でも可能ですが、労働組合として要求するほうが効果的です。全国医師ユニオンに加入したり、職場で仲間を見つけて労働組合を結成するなどすることを検討してください。また、国も、現在の危機的状況を現場で支えている医療従事者に対し、特別な補償を検討するべきです。そのため、医療従事者が労働組合などで団結して、国に特別の補償を提言することも考えられます。

Q-8-3  勤務先の病院からCOVID-19患者の診療を頼まれましたが、断っても良いでしょうか?(応召義務との関係で)

 当該病院が感染対策を講じていない場合、診療を命じる業務指示に従う義務はありません。

【解説】

労働者の生命・身体に対し危険をもたらす使用者の業務命令は、無効と解されています。勤務先の病院が、感染対策を殆ど何も講じていないような場合、COVID-19患者の治療や診療を命じる業務命令は無効となり得ます。なお、医師には、応召義務がありますが(医師法19条)、これは訓示的なものであり、医師が使用者である病院や具体的な患者に対して具体的に負う義務ではありません。少なくとも、医師の安全が全く担保されていないような環境のもとにおいて、医師が病院からの診療命令を拒否したからといって、当該医師自身に応召義務違反が問われることはないと解されます。

 

 

厚労省の資料

新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)

令和2年4月28日時点版

「問2 医師、看護師などの医療従事者や介護従事者が、新型コロナウイルスに感染した場合の取扱いはどのようになりますか。

 

患者の診療若しくは看護の業務又は介護の業務等に従事する医師、看護師、介護従事者等が新型コロナウイルスに感染した場合には、業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となります。」