奈良病院医師の宿日直勤務の時間外手当請求判決に関する声明を発表

 今回の判決は、長時間の過重労働下に苦しむ勤務医にとって極めて重要なものであり、過労死をはじめとする日本の異常な勤務医労働を改善するうえで、大きな一歩と言えると、下記声明を発表しました。また、厚生労働大臣あてに同内容の要請を送りしました。

 奈良病院の医師の宿日直勤務の時間外手当請求判決に関する声明2013.2.15

 奈良病院の医師の宿日直勤務の時間外手当請求判決に関する要請2013.2.15

 

奈良病院医師の宿日直勤務の時間外手当請求判決に関する声明
                                2013年2月15日
                                全国医師ユニオン
 報道によれば、2月12日に最高裁判所第3法廷は奈良県側の上告を退けました。今回の決定は、長時間の過重労働下に苦しむ勤務医にとって極めて重要なものであり、過労死をはじめとする日本の異常な勤務医労働を改善する上で大きな一歩と言えます。
 本裁判は、奈良県立病院の医師がいわゆる「日当直」と呼ばれる休日や夜間の診療は時間外労働であるにもかかわらず、「宿日直勤務」扱いとされていたために労働基準法違反として訴えていたものです。「宿日直勤務」とは、ほとんど通常業務をしなくてよいもので、通常の賃金の3分の1以上の安い賃金で夜間や休日に労働させることが可能なものです。しかし、救急医療や重症者の診断・治療を24時間体制で行なう医療機関においては、休日や夜間の「日当直」は通常業務が常態化しており、「宿日直勤務」ではなく時間外労働になります。厚生労働省も2002年の通達「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」において、「宿日直勤務」とは「当該労働者の本来業務は処理せず、構内巡視、文書・電話の収受又は非常事態に備えて待機するもの等であって常態としてほとんど労働する必要がない勤務である」と明確に述べています。しかし、多くの医療機関では、時間外労働にあたる「日当直」が「宿日直勤務」とされたままで、医師の長時間過重労働の温床となっていました。日本の勤務医は、通常勤務に引き続き当直勤務をおこない、さらに翌日の通常勤務を連続して行なうために32時間を超える長時間労働が強いられています。今回の裁判でも、一審・二審ともに奈良県は原告医師に割増賃金を支払う義務があるとの判決が出ましたが、奈良県側は最高裁に上告していました。
 国連の労働に関する専門機関であるILOは、1日や1週間の労働時間の上限を定める勧告を行なっていますが、日本はこれを批准していません。従って日本の労働基準法は不十分な面がありますが、労働時間が長くなれば長くなるほど割増賃金を増やすことで、長時間労働を抑制する制度を採っています。本来であれば医師に長時間労働をさせれば人件費が増え経営効率が悪くなるために、交替制勤務を導入するインセンティブが働くことになります。しかし、現状では休日・夜間の時間外労働を「宿日直勤務」とすることや医師聖職論によるサービス残業が常態化しているために、医師だけ交替制勤務の導入が進んでいません。ちなみに、EU諸国では安全性の視点から、1週間の勤務医の労働時間は待機時間も含めて48時間と決められており、例外を認めないとされています。尚、今回の裁判においては、医師が患者の安全性を目的に自ら行なった自宅待機に関しては、業務命令ではないために労働時間には当らないとされました。患者の安全性を守る行為を、医師個人の問題に矮小化している点には問題があります。
 全国医師ユニオンは、昨年実行委員会を起ち上げ「勤務医労働実態調査2012」を実施しました。今回の調査結果では、当直時に「通常業務はほとんどなし」と答えた医師は15%のみで、当直の85%は時間外労働であると考えられます。当直明けに連続した1日勤務は79%でした。また、安全性の点からは、医療過誤の4大原因として「医師の負担増」「時間不足」「スタッフの不足」「過剰業務による疲労」との回答が寄せられました。さらに、この2年間で業務負担が増えたと答えた医師は44%にものぼり、業務負担が減ったと答えた医師は17%にすぎませんでした。政府や厚生労働省は勤務医の負担軽減を掲げていましたが、現場の医師の労働環境は悪化し、医療の安全性も脅かされています。
 私たちは、監督官庁である厚生労働省をはじめ各医療機関は今回の最高裁判所の決定及び一審・二審の判決を重く受け止め、労働基準法遵守を勤務医にも徹底することを強く求めます。