医師ユニオンとして、産婦人科医の当直時の勤務内容が、時間外労働としての訴訟に、敬意を表するものです。
厚生労働大臣あての「勤務医の時間外賃金不払い是正に関する要請」とあわせ、「産婦人科による時間外賃金訴訟の和解に関する声明」を発表したので、ご紹介します。
産婦人科医師による時間外賃金訴訟の和解に関する声明
2011年12月21日
全国医師ユニオン
報道によれば、愛知県の刈谷豊田総合病院に勤務していた産婦人科医師が、通常の労働をする必要がない宿直勤務中に分娩や帝王切開手術などをやらされていたことから、これらの労働は宿直ではなく時間外労働にあたるとして、病院側に時間外労働としての賃金の支払いを求める訴えを起こしていた。原告の医師は「2009年4?9月、この病院に勤務。夕方から翌朝までの宿直を月3?4回、休日の朝から翌朝までの日直兼宿直を月1?2回担当した」とされている。そして「医師は、病院の就業規則で決められた時間外勤務の割増率に基づいて賃金を計算。受け取った当直手当を差し引いた280万余円を支払うよう求め、10年9月提訴した」とされている。本年12月15日の名古屋地裁での和解では「医師が求めていたほぼ全額の280万円を病院が支払うことで双方が合意し、和解が成立した」とされる。これは、原告の完全勝利と言える内容である。聞くところでは、今回訴えを起こした医師は、日本の勤務医への不当な労働基準法違反を是正することを目的として起ちあがったものであり、この医師の行動に敬意を表するものである。
医師の当直と呼ばれるものは、法的には宿直と時間外労働の二つに分けられる。宿直とは、「本来業務は処理せず、・・・常態としてほとんど労働の必要がない勤務」とされている。従って、労働基準法で定める労働時間である1日8時間・週40時間を超える分娩や手術はもちろんのこと、救急医療や重症者の治療等を想定した当直や日直は、「ほとんど労働の必要がない」宿直ではなく時間外労働として認められなければならない。
勤務医の当直問題に関しては、先に奈良県立病院の産婦人科医師が、宿直とされていた業務が実態として時間外労働であるとする訴えを起こし、奈良地裁での実質勝訴に続き、大阪高裁でも実質勝訴を勝ち取っている。奈良県は最高裁へ上告しており、最高裁での結論はまだ出されていないが、厚生労働省は2002年に「医療機関における休日及び夜間勤務の適正化について」という通達を出し、宿日直勤務は「病室の定時巡回、少数の要注意患者の定時検脈など軽度又は短時間の業務のみが行われている場合」とし、各病院団体にも適正化の要請を行っている。本来業務を行う当直を宿直扱いにすることは、勤務医の過重労働の元凶であり、医療崩壊の原因でもあり直ちに改善する必要がある。
私たち全国医師ユニオンは、最高裁判所に労働基準法に基づいた適正な判断を早急に示すことを求めるものである。また、医療の24時間体制を維持しながら労働基準法を遵守するためには、医師の交代制勤務が必要である。文部科学省にはこれを可能にする医師数を明らかにし、必要な医師養成をおこなうことを求める。財務省には、勤務医への不払い労働をなくすことが可能な、診療報酬への予算処置を行うことを求める。そして、厚生労働省には、労働基準監督署が医療機関に適切な指導を早急に行うことを求めるとともに、各病院団体へ夜間の分娩をはじめ救急医療や重症者の治療を担う医師等の当直を時間外労働として認めるように指導することを求めるものである。