活動実績

2012/11/18

全国医師ユニオン 第5期運動方針 2012年11月18日

全国医師ユニオン 第5期運動方針

                                   2012.11.18
1、医師労働をめぐる情勢
全国医師ユニオンが結成され3年半がたちます。医療崩壊が叫ばれるなかで2009年5月に全国医師ユニオンが結成されました。この年の9月には民主党政権が発足、民主党は医療や福祉の充実を掲げ、少なくない医師がこの政権に期待をしました。長期の自民党政権による医療・福祉への財政削減政策に対して、当時の民主党は自民党の社会保障費削減政策を否定するだけでなく、医師数を1.5倍にすること、当直を時間外労働として認めること、交替制勤務を導入することなどを具体的にマニフェストの各論に盛り込んでいました(INDEX2009)。
 しかし、勤務医の労働条件の大きな改善はみられていません。勤務医労働において労働基準法を守るという意識を持つ病院管理者は極めて少数にとどまっています。また、監督官庁である厚労省においても労働基準局の労働基準法遵守という立場はあるものの、この実現を可能にする医療政策は全くみられません。中医協などで勤務医の負担軽減の議論がありますが、労働基準法遵守という視点が全くないことは大きな問題です。文科省での医師養成数の議論も労働問題の視点がないばかりか、労働団体関係者の意見は全く聞かずに議論が進められています。このようなことは、許されることではありません。
 また、厚労省の政策には安全性の視点から医師の過重労働を規制する動きは全くみられません。国際的には医師の労働時間に対する規制は強まっています。今日の先進国では、当直明けの連続通常勤務など安全性の面からあってはならないことです。異常な医師労働の問題を厚労省は正面から受け止めて、医療政策として解決すべきですが、中医協や社保審においても根本的な問題は全く議論されていません。
 もちろん、民主党の公約違反は医療に限ったものではありませんが、今ではそもそも民主党のマニフェストは実現不可能なものだったとの論調がマスコミで強調されています。この逆風の中で、医療現場の矛盾はさらに深刻化する可能性があります。私たちの主体的な運動が極めて重要であると言えるでしょう。前期、全国医師ユニオンは勤務医労働実態調査2012に取り組みましたが、今後はさらに医師の過重労働が安全性に及ぼす影響の科学調査や、ヨーロッパの医師労組との協力関係を作り、働き方のグローバルスタンダードを日本の医療界に確立することが求められています。
2、この一年の取り組み
 第4期の重点活動としては、?労働環境改善の取り組みとして、今期のメインの企画である勤務医労働実態調査2012に取り組みました。この調査を行うにあたり、4月に第3回医療労働研究会で「勤務医の負担軽減を考える」シンポジウムを開催し、記者会見を行いました。また、日常的な労働相談や厚労省への要請行動を行いました。?国民医療を守る活動としては、ドクターズ・デモンストレーションの継続として、仙台で講演及びシンポジウムとドクターズ・ランニングを行いました。また、医療再生フォーラムの後援団体として、2つの企画に協力しました。?情報を発信する活動として、ドクターズユニオン・ニュースの定期発行を開始しました。これまでの出版物の販売も引き続き行っています。また、医科大学で代表が医師労働に関する講義を行っています。?組織の拡大・強化として、関東ブロック連絡会議をはじめとして、東海・関西でもブロックの連絡会議を結成しました。またニュースの定期発行は、組織の強化と財政への貢献も目的としています。
 これらの活動は、現状を大きく変えるほどの成果を上げることができたとはいえませんが、現在の全国医師ユニオンの主体的な力量からみれば、十分に評価に値する活動であったと考えられます。
1)勤務医労働実態調査2012
 勤務医の過重労働が社会的な問題となってから、すでに5年以上がたちます。当初、厚労省をはじめ医労連や病院団体などが、大規模な医師労働に関する調査を行いました。これらの調査結果が公表されてから、厚労省も医療政策や診療報酬に関して、勤務医の負担軽減を掲げることになりました。また、多くの医療機関は労働基準監督署から是正勧告を受けています。
?しかし、その後も32時間を超える長時間の連続労働が多くの医療機関で常態化しており、研修医の過労死も起きています。厚労省が掲げている勤務医負担の軽減策はほとんど効果をあげていません。この間、医師養成数の増員が行われていますが、勤務医の労働基準法遵守や交代制勤務に必要な医師数を養成するという視点での議論は全く行われていません。これでは医療再生に向けた抜本的な改革は進まずに、日本の医療の危機はますます深刻さを増していくでしょう。
 私たちは、これらの現状をふまえて、勤務医労働に関する大規模な実態調査を実施しました。あらためて現状を正確に認識する必要があり、この間の勤務医の負担軽減策がどの程度の効果を上げたのか検証する必要がありました。
全国医師ユニオンは、調査を行うにあたり一定の規模を確保するために、本田宏先生をはじめとする医師問題に関わる方々に世話人になっていただき実行委員会を起ち上げ、各学会をはじめ様々な団体に協力の要請を行いました。学会では日本小児科学会、日本救急医学会、日本麻酔科学会、日本神経学会の4学会の協力が得られています。
 集められたアンケートは2109名分となっており、当初の目標3000名には届きませんでしたが、最新の勤務医労働調査の詳細で信頼性のあるデータ作りが可能となっています。
この調査結果をもとに一定の政策提言も作ります。そして、記者会見でのマスコミ発表や厚労省への要請、さらに国会議員への要請等も検討していきます。
2)厚生労働省要請行動
 今期は、4月27日に厚労省への要請行動を行いました。今回の要請は医労連の勤務医対策委員会からの共同行動の呼びかけによるものです。勤務医の労働条件の改善を求める団体とは、一致する点があれば積極的に協力関係をもち、厚労省への要請行動も行うべきであると考えます。今回の要請文に関しては医労連より提案されたものに、全国医師ユニオンが修正意見を出し合意に至ったものです。主な内容は勤務医の労基法遵守や労働環境の改善を中心としたものにTPPに関する事項が加わっています。
 要請文に関しては、労働基準法の遵守の部分は原則的な内容でありこれまでの私たちの主張と変わりはありません。新たな点として、勤務医の負担軽減が診療報酬の改定後の加算として盛り込まれていますが、実際の勤務医の不払い労働の改善などに結び付いていないために、加算の要件に勤務医の労基法遵守を入れることを主張しました。TPPに関しては、医労連は反対の立場ですが、全国医師ユニオンの運動方針では明確な反対の立場とはなっていないために、国民皆保険を守れない場合は反対すべきであるとの条件を付けました。
 厚労省からは、労働基準局・医政局に加え保険局の担当者も加わり、厚労省の立場の説明と要請文への回答が述べられました。
 私たちは勤務医の労働条件の改善を正面から求める団体として、これからも粘り強く要請を行っていく必要があると考えます。
3)ドクターズ・デモンストレーション
 昨年、全国医師ユニオンが医療再生を目的に呼びかけたドクターズ・デモンストレーション2011は、被災地でのシンポジウムや全国4ヶ所で医師が走って医療再生を訴えるドクターズランニング、50年ぶりとなる医師のデモ行進を行いました。そして最後のメイン企画であるドクターズウォークは、日比谷公園で開催され医師・歯科医師800名、医療従事者・市民を含め2500名の参加で成功させることができました。また、医療再生への要請文を厚労省やすべての国会議員に送りました。
 今回の取り組みに参加した医師・歯科医師より、「今回だけの取り組みで終わるのはもったいない」、「医療再生はまだまだ進んでいない、医療が再生するまで続けるべきだ」などの意見が寄せられたため、2011を取り外し「ドクターズ・デモンストレーション」を継続することにしました。
 今年は9月15日に被災地の宮城県仙台で、講演とシンポジウムを開催し、翌16日には医師・歯科医師が走って震災復興と医療再生を訴えるドクターズ・ランニングも開催しました。
 記念講演は「医療再生とTPP」というテーマで、元毎日新聞記者で歯科医師の杉山正隆先生に韓国や米国の実状を報告していただきました。シンポジウムでは、宮城県の医療復興のコーディネーター、宮城県歯科医師会会長、岩手県陸前高田の県立高田病院院長、放射線問題に取り組む福島県の桑野協立病院院長、宮城県災害拠点病院である坂総合病院院長が参加して、震災から1年半を経過した医療の現状と課題等について、それぞれの現場からの報告と討論が行われました。
 翌16日(日)には、医師・歯科医師・医学生をはじめとする医療従事者が「震災復興」「医療再生」のゼッケンをつけ仙台市内でランニングとウォーキングによるアピールを行いました。
4)医療再生フォーラムへの協力
 現在、TPPに関して医療分野への影響が懸念されています。日医もTPPへの反対を明確に打ち出しました。ユニオン運動方針にもTPP問題に取り組むことが明記されていますが、医療にどのような影響が及ぶのか不明な点が多く、TPPに関する学習・研究が必要となっています。代表の植山が呼びかけ人となっている医療再生フォーラム21では、このことを踏まえて、2月26日に「TPPと日本医療の再生を考える」シンポジウムを開催しました。全国医師ユニオン単独では充実したシンポジウムの開催等は困難なために、全国医師ユニオンとして医療再生フォーラム21の「TPPと日本医療の再生を考える」シンポジウムに協賛というかたちで協力しました。
 また、いわゆる「特定看護師」に関する議論が厚労省の検討部会で行われ、法改正も含めた制度の設立が進められようとしています。しかしながら「特定看護師」に関する議論は十分に知られていないために論点を明らかにする目的で9月30日にシンポジウムを開催しました。
 ちなみに今回のシンポジウムは、いずれも賛成派と反対派が議論を深めるという形をとっています。
5)ユニオン会員の医療機関における活動
 現在、一部の医師ユニオンの会員が自らの医療機関で労働条件の改善を求める運動や訴えを起こしています。形式として、一勤務医として病院内で積極的に環境改善の声を上げるケースや、パワハラや不当解雇に対して弁護士を通じて対応しているケースがあります。どちらも全国医師ユニオンとして会員本人の希望を最優先として援助を行うことにしています。今後、本人の希望があれば、記者会見などを行い社会的に現状を訴える可能性もあります。
6)情報発信に関する活動
 情報発信に関しては、勤務医労働実態調査2012を開始するにあたり記者会見を行いました。医師労働やユニオンに関する原稿依頼などにも積極的に応えています。新たな情報発信としては、ドクターズユニオン・ニュースの定期発行を開始しました。当面は年4回の発行の予定で、5000円で賛助購読していただける勤務医の方を全国医師ユニオン・サポーターとし、情報発信と組織の強化を目的としています。
 代表の植山が『起ち上がれ!日本の勤務医よ』を出版しましていますが、300冊を全国医師ユニオンに寄贈して頂いており、これも情報発信と財政活動の一貫として販売普及を進めました。
 6月5日には、慈恵医科大学で植山代表が医師の労働問題に関する講義を行いました。これは法学担当の教授から正規の授業のゲスト講師を依頼され実現したものです。
 対象は医学科の1年生112名と看護科の1年生42名で、講義の内容は医師不足問題や勤務医の過重労働に関するものでした。医学部・医科大学から医師労働や医師ユニオンの話をして欲しいとの依頼は初めてで、画期的なことです。時代は確実に動いていると言えるでしょう。
7)組織活動
 会員数の増加は進んでいません。日本で勤務医の労働組合の確立をどのように軌道に乗せるのかが問われています。日本では、医師が労働組合に入るハードルは極めて高いと考えられます。この現状を考慮して今期は、ドクターズユニオン・ニュースの定期発行に踏み切りました。現状での定期発行は、編集・発行作業の労力や印刷費等の問題もあり厳しい面もありますが、サポーター会員制度による組織強化と財政活動も重視して発行に踏み切ったものです。
 全国医師ユニオンには、秋田県と宮城県に支部がありますが、県単位での支部の結成はなかなか困難な状況にあります。そのために、県を超えたブロック単位での連絡会議の結成を検討していましたが、今期は、関東ブロック・東海ブロック・関西ブロックの3つの連絡会議を結成することができました。連絡会議は規約に定められた正式の機関ではなく、顔の見える活動や仲間作りを進めることを目的とした緩やかな集まりです。さっそく関東連絡会議では、7月21日(土)に納涼屋形船企画を行いました。
3、第5期の中心的な活動に関して
 勤務医の労働条件の改善には、労基法遵守の視点が基本です。しかし、会員の中には労基法遵守をもっと前面に出し活動すべきであるという声がある一方で、いきなり労基法遵守を求めるのは困難なために現状を少しでも改善するのに役立つ方法や情報を提示すべきであるとの意見があります。全国医師ユニオンとしては労基法遵守を主張し労基法の知識や関連通達の情報などの発信を進める一方で、環境改善に役立つ情報等も発信し様々な会員の要望に応えることを追求していくものです。
 今期は主要な活動として以下の課題に積極的に取り組みます。
1)勤務医労働実態調査2012の結果の活用
 勤務医の過重労働や労基法違反が社会的に認知され、その改善策が政権党のマニフェストに掲げられたにもかかわらず、医師労働の問題を法律に基づき根本的に改善する政策議論は国政の場でも行政の場でも行われていません。この現状を考慮すれば、今回の勤務医の労働実態調査2012を国民の前に明らかにし議会や行政を動かす必要があります。
 私たちは勤務医の労働問題を正面から取り組む唯一の団体として、勤務医の労働条件の改善に関するより具体的な提言等を作成するなどして、厚労省や国会への要請行動をすすめていきます。
2)過重労働の安全性に及ぼす科学調査
 勤務医の過重労働が、医療の安全性を損なうことは明らかです。しかし、日本においては勤務医の過重労働が勤務医の身体にどのような悪影響を及ぼしているかの科学的な研究はありません。パイロットに関しては、国際線勤務や時差が睡眠に与える影響の研究が、日乗連と労働科学研究所の協力によって行なわれています。私たちは、今回の勤務医労働実態調査2012に引き続き、勤務医の過重労働が安全性に及ぼす影響の調査・研究を進める立場で、積極的にこの課題に取り組みます。
3)医師労働に関する弁護士との協力強化 労働相談や団体交渉等への援助の強化
 全国医師ユニオンの最大のメリットは、労働組合として団体交渉権等の特別の権利を有することです。
しかしこの間、この労働組合としての権利を使うことはほとんどありませんでした。団体交渉は、病院管理者側との交渉権であり、対立を意味するものではありません。異常な勤務医労働を改善するために日常的に交渉を行うことは、医療機関においては当然のことであり、むしろ正常なことです。
 ただし、この間の活動経験では、全国に孤立した会員が団体交渉を行うことは困難であり、むしろ労基法違反に関して弁護士の援助を求めるケースが見受けられます。この点を考慮し、全国医師ユニオンとして顧問弁護士との契約を行い、会員との相談システムの確立を目指します。
 もちろん団体交渉が可能な場合は、積極的に援助を行うものです。
4)EU諸国の医師労組の調査・交流の追求
 EUにおける勤務医の労働時間は待機時間も含めて48時間と定められています。しかし、EUの医師労働の実態や医師の労働組合の現状に関しては、ほとんど情報を持ち得ていません。日本の勤務医の異常な勤務を変えるには、EUをはじめとする先進国の勤務医労働のグローバルスタンダードを日本に定着させる必要があります。そのためには、EUの実態を詳しく知り、多くの医師をはじめとする医療従事者や国民に情報発信することが必要です。現状の全国医師ユニオンの力量から、なかなか困難な課題ですが、社会科学系の研究者などの力も借りながら、積極的にこの課題に取り組みます。
5)医療事故調査の問題に関して
 現在、厚労省で医療事故に関する検討会が開かれ議論が進められています。医療事故の問題は勤務医にとっても極めて重要な問題です。過重労働は、明らかに医療事故を増やすために、欧米では安全性の点からも医師の労働時間に上限を設けるなどの規制が進んでいます。
 長時間労働が野放しになっている日本では、過重労働を強いられている勤務医が医療事故を起こした場合も、その医師個人の責任が追及されてしまいます。私たちは過重労働そのものをなくすことを求めていますが、仮に過重労働に関係する医療事故が起きた場合には、医師の個人責任を問うべきではないと考えます。また、病院内の事故調査委員会が誤った報告書を出した結果、関係者の中で最も立場の弱い勤務医が逮捕されるという冤罪も起きています。
 従って、私たち全国医師ユニオンとしても、事故調問題に関して勤務医の立場から必要な発言を行って行くことが求められていると言えるでしょう。今期は、医療事故問題に関しても取り組みを開始します。
6)全国医師結ユニオンの組織強化について
 活動報告で述べたように、日本での勤務医の労働組合の確立をどのように軌道に乗せるのかが問われています。日本では、医師が労働組合に入るハードルは極めて高いと考えら、この現状を考慮してドクターズユニオン・ニュースの定期発行を開始しました。このニュースは、単に会員へのニュースにとどまらず、サポーター会員制度を取ることにより、多くの勤務医への情報発信とユニオンの組織強化、さらに財政基盤の強化をめざすものです。サポーター会費は年5000円となっており、同額の一般購読(医療機関などの団体や勤務医以外の個人など)も含め普及を進めます。このニュースの普及は、すでに方針として掲げた「過重労働の安全性に及ぼす科学調査」や「EU諸国の医師労組の調査・交流の追求」の実現にとっても、財政的に極めて重要となっています。
 前期は、関東ブロック・東海ブロック・関西ブロックの3つの連絡会議を結成することができましたが、この連絡会議を軌道に乗せ、顔の見える活動や仲間作りの取り組みを進めます。さらに、可能な県やブロックで支部や連絡会議を結成することを追求します。
7)医療再生の国民運動の取り組み
 今日の勤務医の過重労働は、医療費抑制政策のもとで行われた医師数抑制政策によって引き起こされたものです。もし絶対的な医師不足の下で、医師が労働基準法を遵守すれば、診療が困難となる医療機関や地域がでてくることが懸念されます。このような状況のなかで、全国医師ユニオンの活動は多くの医師をはじめ医療従事者、さらに国民の支持を受けることが求められています。勤務医労働実態調査2012への4学会をはじめとする各団体の協力や大学での医師労働の講義が可能となったことは、この間の医師労働と医療再生へ向けた真摯な取り組みが信頼を広げたものと考えられます。今後も、私たちは医師をはじめとする医療従事者や国民のための医療再生の運動と医師の労働条件の改善の運動を同時に進める必要があります。
 また、医療安全の視点からも、患者・国民は医師の過重労働を求めておらず、むしろ安全性の高い勤務体制を望んでいるでしょう。医師が医療再生の運動で行動することは、患者・国民の医師に対する信頼を高めることになると考えられます。
これらの点から、私たちは医療再生の国民運動に関しても可能な範囲で、積極的に取り組んでいくものです。