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2018/8/10

東京医科大学における女性受験生差別問題に関する声明

東京医科大学における女性受験生差別問題に関する声明

2018年8月10日

                                    全国医師ユニオン

はじめに

東京医科大学が医学部医学科の入学試験において、女性受験者の合格数を減らすことを目的に試験結果を操作していたとの報道が行われています。医学部において女性合格者を減らす受験調整が行われているとの噂は以前からありましたが、今回の報道はその噂が事実であることを裏付けるものと言えます。

日本女性医療者連合のホームページには、女性の医学部合格者が不自然に少ないことを大学受験の合格者に関するデータより分析した論文が掲載されています。十数年前から医学部の女性医学生比率が伸びなくなっていること、日本全体の医学部受験において女性受験生の合格率が他学部と比較して低いとのデータがあり、国公立大学を含め多くの大学で女性受験生への差別が行われている可能性が示されています。今回の問題は一私立大学の問題にとどまらないと言うことです。

東京医科大学の問題は、文部科学省幹部の不正疑惑に端を発して女性受験生差別が公になりましたが、このような医学部入試における疑惑が自浄作用として表面化したものではないことを残念に思います。

私たちは今回の問題を医学界及び医療界全体の問題としてしっかりと認識し、適切な改革を行うことが必要であると考えます。そのために、主な問題点を指摘しその改善を求めるものです。

1)文部科学省と内閣府の責任

今回の不正は、個人の利益のために行われたものではなく大学病院を守るために行われたとの指摘があります。当然、全ての女性受験生への差別ですから、特定の個人が利益を受けるものではありません。

文部科学省は、全ての大学でこのような不正が行われていないか徹底的に調査する責任があります。また、今後、このような差別が起こらないよう、全ての大学で男女別の受験者数や試験点数、さらに合格率等を公表するよう義務付ける必要があるでしょう。今回の東京医科大学の不正は計画的な点数操作で客観的に証明可能なものですが、面接や小論文などの個別評価は明確な基準がなく試験官の主観に左右されるため女性差別を証明することが困難です。面接や小論文等の成績に関しても、どのような基準で採点しているのかを公開すると同時にその成績に関しても男女別に公表されるべきでしょう。これらの対応は、これまでの疑念や医学部入試に対して失った信用を取り戻すため、また、これから医師を目指す女性に対する情報公開として不可欠であると考えます。

ここで、危惧される問題は文部科学省の幹部が大学不正入試問題の当事者であること、文部科学省がこの間に様々な不正や資料の隠ぺい等の当事者であることから、信頼できる調査が行われるのかという疑問です。従って調査に関しては、男女共同参画に関する担当省庁である内閣府が責任を持って文部科学省が厳格な調査を行うよう指導する必要があると考えます。

2)医療界の倫理の問題

日本の医療界には医師は聖職であるとの考えが根強く、これが医師の過重労働を招く要因となっています。医師は長時間働いて当然という固定観念があり、女性は結婚や出産を機に職場を離れるケースが多いため、医師という職業に適さない、戦力にならないと公然と発言する医師も少なくありません。このような医師たちは患者を守るためとの大義を掲げ、そのためには労働基準法など守っていては医師の仕事はできないと語り、結婚や出産を理由に職場放棄をするような女性医師には、患者は任せられないと言います。異常な過重労働を担って勝ち残った医師たちが、自らの成功体験を肯定し、他人に押し付ける構図が今も根強く残っています。このような考えが医師の過労死を生み、女性差別を助長していると言えるでしょう。これらは、交代制勤務やチーム医療が行われていない日本の制度上の不備を個人の責任とする悪習と言えます。ILOが8時間労働制を第1号議案として採択してから来年で100周年となりますが、このような国際的なワークライフバランスの考えが理解されていないことが問題です。

医師聖職論が強調される一方で、医療行政や病院・医師の不祥事をはじめ、パワハラやセクハラは後を絶ちません。日本の医療界が求める医師の聖職性に関しての考え方には大きな歪みがあると言えるでしょう。世界的な医師の倫理綱領とされるジュネーブ宣言では、医師はその仕事において「年齢、疾病もしくは障害、信条、民族的起源、ジェンダー、国籍、所属政治団体、人種、性的志向、社会的地位あるいはその他いかなる要因」においても差別してはならないと書かれています。また、最近では医師の健康や安寧が必要であることも追加されています。医療界には、ジュネーブ宣言に書かれている全ての差別をなくす自浄作用と医師の健康と安寧の重要さを改めて真摯に受け止めることが求められています。

3)医師不足が引き起こす過重労働、そして女性差別

 今回の女性差別問題の背景には医師不足の問題があり、この医師不足が医師に過重労働を強制しています。日本政府は医師の数を1980年代から抑制してきたため、人口当たりの医師数はOECD諸国より3割程度少なくなっています。この少ない医師数で世界トップの高齢化社会を担っているので、医師は当然過重労働を余儀なくされます。欧米の医師の労働時間を比べれば日本の医師の長時間労働は突出しており、常勤医師の4割近くが過労死ラインを超えて働いています。このような日本の医師の異常な働き方が、今回の女性医師を減らす動機となっているのは明らかです。

一方、欧米の医師の労働時間は短く、医師は聖職であるからと言って長時間働くという考えはありません。バカンスのある国では医師も平等にバカンスを取りますし、それを可能とするシステムが作られています。従って、女性医師を減らすという動機自体がなく、多くの国で医師の半数は女性です。

現在、医師の働き方改革の議論が進められていますが、都市や地方を問わず、ほとんどの病院が医師不足のため労働条件改善のめどはたっていません。医師の偏在問題が原因とされていますが、現実は「絶対的な医師不足の中の相対的な医師偏在」です。そのことは医師が余っている地域や病院がないという事実、また医師が余っている診療科がないことから明らかです。地域ごとに診療科別の必要医師数を明らかにし、これに基づいた必要医師数を算出する必要があります。しかも、過労死ラインを超える医師がいなくなること、女性差別が起きない診療環境が実現される必要医師数であることが前提となります。

ここで、大学の問題に言及しておきます。大学病院には医師が多く在籍していますが、大学は診療・研究・教育を担うため仕事量が膨大となり医師不足のために労働条件が最も悪くなっています。また、マンパワー不足に加え補助金等が毎年減らされ深刻な状況に置かれています。今回の事件は入学試験の不正操作による女性差別の問題ですが、その背景にあるのは大学の医師不足です。大学病院に於いてすら医師不足が進行しており、そのために相対的に人員減と見なされる女性医師をこれ以上増やすことを安易に阻害したとみるべきでしょう。ましてや一般医療機関に於いては、医師不足は更に過酷な状況を呈しています。女性医師比率が上昇する中で、政府が医師増員を適正に行ってこなかったツケが、今この様な形で問題化したと言えます。

今こそ女性活躍のためにも抜本的医師増員を行うことで、女性医師も男性医師も働きやすい社会に変えていくべきです。