厚労省案の11の問題点と求められる対策
2019年1月17日
全国医師ユニオン代表 植山直人
1、厚労省案の問題点
1)厚労省の基本姿勢の問題
これまで日本は医師数抑制政策をとり、医師不足を医師の過重労働で補ってきたが、今回の省令はこれまでの政策を変えず、法律を現場に近づけるもので、改革の名に値するものではない。従来からの医療政策を延命させ、これまでの政策の誤りを医師聖職論により医師の個人責任に転化するものに他ならない。検討会では、「目の前の患者を助けるためには長時間労働はやもえない」という言葉を何度も聞くが、一部の医師に負担が集中しない制度やシステムを作ることが検討会の役割である。多くの医師が身体的・精神的に病み、過労死さえ生んでいる現状への反省と改革、未来への展望を示すことが検討会の本来の目的である。
医師数問題に関して、簡単に触れておく。医師の過重労働が日本で必要な理由が医師不足にあることは明らかである(図1)。厚労省案では2035年に特例は終了することになっているが、その理由は2036年内に医師の需給が均衡するためとしている。16年にもわたって不正常な状態を勤務医に押し付ける前に、当面は医師を増員し、解決を早めるのが常識である。また、偏在をなく具体策もない。この発想では2035年に医師の需給が改善していなければ特例は延長される可能性が高い。
さらに、厚労省の示す案は、憲法違反が危惧されるのみならず、医療現場に様々な害を及ぼし、他の業界にも悪影響及ぼすことが危惧される。最近、厚労省の不祥事か続いているが、厚労省の政策立案にとって都合の良い安易な対応が目立っている。今回の時間外労働時間の提案に関しても、憲法や労働基準法、過労死等防止対策推進法などとの整合性を十分検討したとは思えない。
超長時間労働を認める理由も、平成27年時点で約1割の医師が1920時間を超えて働いているという安易なものである。今回の提案が省令となりそのもとで労災が起きた場合、私たちは司法に違憲立法審査を求めることになるが、そこで省令が違法とされた場合、どのような責任と対応を取るつもりなのであろうか。また、過労死ラインをはるかに超える時間外労働を認める省令のため医師の過労死は起き続ける。過労死の民事裁判において使用者が訴えられ、長時間労働を命じた病院長などが民事責任を負わされることが予想される。この場合には省令を守った病院長などが加害者になってしまう。このような問題に関して十分な検討が行われているのか、はなはだ疑問である。
2)検討会の構成問題
上記のような問題が出てくる背景に検討会の構成の問題がある。本検討会の構成に関して医師の労働組合の代表が入っていないために、医師委員の意見に大きな偏りがみられる。検討会での医師の委員の発言を聞く限りほとんどの委員は長時間労働経験し、これを乗り切った医師である。勤務医労働実態調査2017では、約4割の医師が健康に不安をもっている。労働時間規制の賛成の医師は51.6%、反対する医師は13.9%とわずかで、多くの医師は多くの医師は切実に労働時間規制を求めているが、その声が届いていない。また、医師の過労死裁判等を経験するなど医師の労働問題に詳しい医師側の法律家や弁護士も委員に選出されていない。このため、検討会の厚労省案は、現場で苦しむ多くの医師が絶望する内容となっている。
3)2000時間の時間外労働では済まない医師の労働負担
1年間の時間外労働の上限が仮に1920時間とすれば。これは1カ月に160時間の時間外労働を12カ月連続で行ってはじめて達するものである。わかりやすい例を示すとすれば、1日8時間の時間外労働とすれば夕方5時から深夜1時までの残業を月に20日間、年間を通して毎月15年後まで働かせることが可能となる。
しかも、この時間にはオンコール(自宅での待機)時間は全く含まれていない。現状では、年の半数のオンコールを負わされている医師もいる。頻回に呼び出される医師の労働は過酷であるが、拘束時間は全く労働時間に反映されない。また、医師には医学の進歩に対応するため研鑽が必要であるが、業務命令のない医学の勉強や学会活動などの自主的な研鑽は労働時間に含まないとしている。つまり勤務医に過労死ラインの2倍の時間外労働とオンコール、さらに自主的な研鑽を課すものである。当然、まともな睡眠時間は確保できず、正常な社会生活を送ることはできない。家庭での人間としての役割を全く無視した、医師を機械のように扱う非人道的な労働時間である。
4)医師の健康は守れない
厚労省は約2000時間を超える時間外労働を認める理由として、現状で約1割の医師がこれを超えて業務を行っていることを上げているが、これらの医師たちは本人の医師に反して働かされているケースやワーカホリック(仕事中毒)となっている可能性が高い。勤務医労働実態調査2017の健康状態に関する質問では、「健康に不安」が 33.4%、「大変不安」が3.8%、「病気がち」が2.9%と、医師の健康が危険にさらされている実態が示されている。
必要なことは年の時間外労働が1920時間を超えると言われる約1割の医師に関しては、その業務内容を徹底的に見直し、特定の医師に長時間労働が集中しない取り組みを早急に進めるべきである。本当にその医師が非常識な長時間労働を行わなければ医療は崩壊するのか疑問である。特定の医師に業務が集中する体制が放置されていたり、ムダな業務を漫然とやらせていたり、チーム医療が確立していなかったり、他の医療機関との連携が不十分であったり、医師招聘に関して自治体や地元大学の姿勢に問題があることが予想される。これらを徹底的に改善することが前提条件となる。
また、すでに健康を害している医師、健康を害す可能性がある医師に関しては直ちにドクターストップをかけなければならない。責任感の強い医師ほど危険である。そして、健康を守ることができる上限時間とする必要があるが、その時間は日本における労災に関する研究や労災に関する裁判判例を考慮すれば過労死ラインと言うことになる。これを超えて健康が守れるという科学的な裏付けは存在しない。
5)早急な改善を前提としない制度設計
この間、国立循環器病研究センター病院で月に300時間の時間外労働を認める36協定が問題視され大きく報道されたが、報道によれば、病院側は実際にはそのような長時間労度を行っている医師はおらず、現在は改善され過労死ラインを超える医師はいないと述べている。この間、労基署が入った医療機関の多くで、労働時間の短縮が進んでいる。今回の法案では医師に関して5年間の猶予が設けられているが、この意味はこの5年間で可能な限り改善を進めるための時間を与えたということである。5年後に年2000時間程度時間外労働の上限を設けるということは、この5年間、働き方改革は何もやらないことに等しい。医療機関での真剣な改善の取り組みに逆行した上限時間の設定である。
6)医師増員や時短インセンティブを消失させる制度
年2000時間の時間外労働を認める案は、この間、何の改善策も取っていない医師不足の医療機関に今のままでも問題はないという誤ったメッセージを与える可能性がある。過労死ラインを超えることに対する罪悪感がなくなり、医師集めもタスクシフトも進まない可能性がある。また、これまで、医師の労働時間を引き下げてきた医療機関も、過労死ラインを超える36協定に戻す可能性がある。悪質な医療機関の中には、医師不足のままであれば特例の病院に選ばれるため、あえて改善を進めずに特例病院に選ばれることを追求するモラルハザードが起きることが危惧される。
医師の過重労働は絶対的な医師不足と偏在に原因があるが、この省令が認められれば長時間労働を前提とした必要医師数の推計が行われることになり、医師の長時間労働が固定化する懸念がある。
7)地域・診療科の偏在の促進
勤務医労働実態調査2017では、実際に診療科を選ぶうえで「労働環境が良いこと」を考慮する若い医師が急激に増えている。従って、長時間労働が常態化する診療科を選択する医師は減少し、診療科の偏在はさらに広がる。
また、医療過疎地の医療機関での勤務は、利便性の低下や子育て問題(実家から離れて親の援助を受けられない、ベビーシッター等のサービス等がないなど)、さらに学会等への参加が困難になるなどのデメリットがある。これに加えて過労死ラインの2倍の過重労働が容認されることになれば、そのような医療機関を選択する医師は今まで以上に少なくなるであろう。
今回の厚労省案では、特例の医療機関として都市部の救急体制を担う病院なども含まれており、対象医療機関はかなりの数に上ると考えられる。これは都市部での医師不足の深刻さを反映したものと考えられるが、安易な拡大は許されない。地域全体の医師数が明らかに突出して少ない場合を除けば、地域内での医師の配置が効率的になっていないだけである。救急を担う病院の一般外来を減らし医療機関の役割分担を明確にするなど効率化をはかることで解決すべき問題である。
過重労働の特例問題は、医師個人のみでなくその家族にも大きな問題である。独身医師または専業主婦を妻に持つ男性医師を前提としたモデルであるため、将来、子供を産み育てたいと考える女性医師や、男性医師であっても妻が働いているケース、すでに子育てや親の介護を行っている医師たちは、救急医療や医療過疎地での仕事に貢献したいと思っても、特例による長時間労働がこれを阻むことになる。
8)大学などの高度医療機関における若手医師問題
今回の厚労省案では「一定期間集中的に技能の向上のための診療を必要とする医師養成のための政策的必要があるため」に年2000時間程度の長時間労働を認めるとしている。これは大学などの高度医療機関での専門研修を行う医師を念頭においたものと考えられる。業務命令でない自己研鑽を労働時間から除外しておきながら、若者にだけこのような長時間労働を課すことは滅私奉公を強要する時代遅れの考えである。EU諸国の医師の労働時間(図-2)をみれば一目瞭然であるが、EU諸国では年齢による労働時間の差はあまりなく、若い医師は長時間働くべきであるという発想はない。日本のみが若い医師に長時間労働を強いており、このために若い医師の過労死がなくならないと考えられる。しかもこの論理は医師不足とは関係がないため、2035年が過ぎても若手医師の長時間労働は永続的に続くことになる。
9)女性差別を固定化する制度
昨年は、医学部医学科入試での女性差別が問題となった。文科省の調査では9つの大学で不正があったとされているが、この調査結果は、医学部入試での女性の合格率の低さを説明できるものではない。多くの大学の面接や小論文、総合的評価などで女性が不利益を受けていることが強く疑われるが、この点は明らかにされなかった。
女性差別が起きる背景には勤務医の過重労働があるが、長時間労働が認められる病院では今後も出産・育児を希望する女性は敬遠されることなる。専業主婦を妻に持ち、家事や育児を行わない男性医師モデルが医師の標準とされ続けることになる。
10)医療安全の無視
昨年来、航空パイロットの飲酒問題がマスコミで取り上げられて、厳しい批判を浴びている。しかし、24時間を超える連続労働は飲酒状態と同様の注意力低下を生むことは国際的な常識となっている。このため、EU諸国では交代制勤務を基本とし長時間の連続労働は、行なっていない。
日本外科学会の調査によれば、「医療事故・インシデント(ヒヤリ・ハット)」について、何が原因と考えるかを聞いたところ、「過労・多忙」が81.3%と断然トップであった。
起床後16時間を超えると人間の注意力は急激に低下することが知られている。日本でも安全確保の点から、トラック運転手の連続労働は休憩や手待ち時間も含めて13時間(例外でも16時間)と労働基準局が定めている。
労働基準局は医師のみ28時間連続で働いてよいとするなら、安全が確保できる科学的な理由を説明する責任がある。もしそれができないのであれば、患者に対して長時間労働の告知を行い、長時間労働中に医療事故が起きた場合には、長時間労働を命じられた医師は免責とすべきである。長時間労働が引き起こすリスクは、該当する医師の責任ではない。患者もそのような医師の治療を望んではいない。交代制勤務を徹底し安全な医療を提供できるシステムを作る必要がある。
11)全ての労働者への悪影響
地域医療を守ることを理由に特定の人間に長時間労働をさせるという発想は、医師以外の職種へも大きな圧力となることが予想される。医師が一人で行えることは限られており医療スタッフと協力して診断・治療に当たる場面がますます増えている。「目の前の患者を助けるためには」看護師によるバイタルの測定や患者家族への問診など看護師の協力を必要とし、血液検査を行えば検査技師、レントゲンやCTを撮るには放射線技師の協力が必要である。時間外に予定外の医療を行うことは他の医療スタッフの残業時間を増やすことになる。医療過疎地では、看護師などの医療スタッフも少ないのが実情であるが、当然これらの職員の労働時間を引き上げる圧力が高まる。
医師は年2000時間の時間外労働ができるとなれば、また過労死ラインの2倍働くことが認められるのであれば、過労死ラインなど大したことではないとの風潮が他の職種にも広がることは避けられない。また、28時間の連続労働が認められるのであれば、とトラック業界などでも連続13時間(例外でも16時間)を守るコンプライアンスは大きく損なわれるであろう。
さらに、経済界にとっては、労働時間の上限引き上げや例外作りを進めることへの誤ったサインとして受け止めかねられない。例外作りの悪い手本として利用される可能性が高い。
労働界にとっては、職業による労働者の分断が進められことになり、労働者の団結を弱め労働運動の弱体化を進める可能性がある。
また、国会での議論を通さずに憲法違反が疑われる省令を簡単に作る前例ができることになり、さらに労働者の権利が奪われることが危惧されることになる。
今回厚労省の提案は働き方改革全体を破壊するインパクトを持った危険な提案であることを厚労省は十分に理解する必要がある。
2、求められる対策
1)この5年間で行うこと
勤務医労働実態調査2017では、改善に有効な方法を調査しているが上位の3つは①医師数の増員、②医療補助職の増員、③無駄な業務を減らす、である。
5年間に各医療機関で削減を進めるにあたって、具体的な目標を設定して取り組みを進める必要がある。その一つの例として以下の案を示す。
①この2年間で年間300時間の時短を目指す。
特に過労死ラインを超えて働いている医師に関してはこれを徹底しすること。これは1日の残業を1時間減らすことを目標とするものである。法令の変更等を必要とせずにトップと医療機関の姿勢を変えることで進めることができるものである。
a. ムダな業務をなくす
多くの医師はムダな業務があると考えており、本当に必要な業務以外を減らす活動を病院全体で取り組むことが必要である。会議や書類作成等などに費やされる時間を1日30分減らすことができれば、300日勤務として、年間150時間の時短が見込める。
b. 当直回数の削減:
長時間労働を行っている医師の当直を外部の医師に依頼して減らす。当直は1回15時間程度の時間外労働を生むため、月の当直を1回減らせば年間に180時間程度の時短が見込める。
c. 当直の準夜帯を当直を行っていない他の医師に代わってもらう(病院内部や外部を問わない)
夕方17時から朝の8時までの当直があるとして、17時から20時までの3時間の当直を代わってもらえば、月に5回当直を行っている医師は、月に15時間、年間で180時間の時短が見込まれる。
d. 外来単位の削減
当直明けに外来や胃カメラなどの侵襲性のある検査を行うことは医療安全上望ましくない。当直明けの外来は、極力避けるべきである。また、医療機関によっては診療所などとの役割分担により外来数を減らすことが求められる。長時間労働を行っている医師の外来を週1単位(4時間として)減らせば、年50週として200時間の時短が見込まれる。
主治医制という慣習が続いている医療機関では、複数主治医制やチーム制に変更する。医師が特定の患者に対して24時間365日にわたり責任を持つことは非現実的であり医師の疲弊を進めるだけである。
これによる具体的な時短目標はないが、完全な休日の取得には極めて有効である。重要な点は、複数主治医制やチーム制をとることを医療機関が宣言し、患者の理解を得ることである。
上記の取り組みは、医療機関や診療科の実状により異なるが、医療界が本気に取り組めばかなりの成果を上げることが可能となると考えられる。
②5年間で過労死ラインを超える医師を大幅に減らす
上記の取り組みをさらに進める中で、診療科によっては医師の代替が効かないケースなどが出てくるため一医療機関では解決できない問題もでてくると考えられる。特に高度救急など緊急手術や緊急カテーテル治療などに関しては、医療機関の壁を越えた体制が必要となると考えられる。そのためには、都道府県単位での輪番制の確立や地域によっては特定の診療科に関する集約化等の取り組みが必要となる。
これも、先の課題ではなく今すぐ取り組みを進め、この5年以内に解決しなければならない問題である。
また、NPやPA(フィジシャン・アシスタント)の促進など法改正が必要となる問題に関しても、議論を進め速やかに結論を出す必要がある。さらに医療機関の役割分担に関しては診療報酬の適正化などで、促進を進める必要がある。
2)根本的な解決
①医師不足と偏在の解消
日本の医療の最も大きな問題は「絶対的な医師不足の中の相対的な医師偏在」であり、これを解決する必要がある。そして、異常な連続労働を止めるには交代制勤務の導入が必要であり、交代制勤務を導入した場合の必要医師数を明らかにしなければならない。
また、偏在問題の解消も行う必要があるが、現状では地域の偏在に関しても診療科の偏在に関しても全く基準がなく、どの地域に何か科の医師がどの程度不足しているのか全く不明である。厚労省は地域ごとの診療科別の必要医師数を明らかにする必要がある。特に少子化問題が深刻となっている現状では、地域で安心して子供子どもを生み育てられる診療体制に必要な医師数であることが不可欠でである。これらの事を考慮した上で、偏在が起きない政策と共に医師増員を行う必要がある。
②自由開業医制度のみなおし
医師の地域偏在の解消には自由開業医制度の見直しも必要である。現状では医師の偏在のために国民の医療を受ける権利が脅かされおり、これを放置することはできない。医療はライフラインに準ずる公的なものである。一方自由開業医制度は市場原理に基づく制度であり、一定のルールがなければ公共性を守ることはできない。市場原理は需要と供給のバランスを必要とするが、日本では需要を無視して医師の供給を厳しく制限しているため市場原理は機能しない。医師と国民の双方が納得できるルールを作る必要がある。
③診療科の選択のルール作り
また、診療科の選択に関しても偏在を解消するためのルール作づくりが必要である。自由と寛容の国フランスにおいてさえも、毎年地域別に必要な診療科の医師数が公開され、学生は成績順で地域と診療科を選択する。診療科の選択は、大学時代または遅くとも初期研修医時代に行われる。大学は、単に知識や技能を教えるだけでなく、学生の適性を把握して診療科の選択にアドバイスや指導を行えるようになるべきである。大学は、地域で必要な診療科医師の数を把握し、学会などとも協力して診療環境の改善策やキャリアアップの道筋を提示し、医学生に求められている進路ややりがいを語る必要がある。
いずれにしても、医師不足を解消しなければ医師の労働実態の根本的な解決は期待できない。地域医療が崩壊すれば、国民皆保険制度も崩壊してしまう。国民医療を守りながら医師の労働条件を正常化するには、明確な工程表を作つくり、計画的な医師の増員を行った上での医師充足の実態調査と労働実態調査を定期的に行い、着実に改革を実行する以外に根本的な解決策はない。長期的には、EUのように医師も一般労働者とほとんど同様の労働条件で働ける環境を作るつくる必要がある。
④歪んだ医療政策の見直し
日本の医療は国際的にみれば、極めて特殊なものとなっている。一年間の医療機関への国民一人当たりの受診回数は、OECD諸国平均は6.9回に対して日本は12.7回と約2倍である。病床数は人口1000人当たりOECD諸国の平均は4.7に対して、日本は13.2と約3倍である。また、CTやMRIといった検査機器の人口当たりの普及率は世界で断然トップでOECD平均の3倍から4倍となっている。さらに、薬剤費なども保健医療支出に占める割合は韓国に次いで2番目に高くなっている。また、日本の医療はフリーアクセスという制度をとっている。これは保険を使って病院を自由に選択できる制度で、患者にとっては喜ばしい制度である。しかし、ヨーロッパの国では病院の選択には制限があり、アメリカはフリーアクセスの国であるが公的な保険は使えない。保険を使ってフリーアクセスを実現すると高度医療機関へ受診が増え、コストの上昇などから公的な保険の維持も困難になる。
日本人の医療に対する要求度は極めて高く、病床数や検査機器も多く薬にも莫大な医療費が使われている。一方、医師や看護師などはその数を国に抑制され深刻な人手不足となっており、医師をはじめとする多くの医療スタッフが犠牲になっている。患者の受診回数や適切な医療機関の配置さらには検査や薬の処方の在り方についても見直す必要がある。
日本の医療制度には大きな歪みがあり、医療体制の維持は限界に来ているため国民と医療従事者が納得できる制度に改革する必要がある。